論語、素読会

亦以て成人と為すべし|「論語」憲問第十四13

子路が「成人」学問・道徳をかねそなえた完璧な人物について尋ねた。孔先生がおっしゃった、臧武仲の知恵、孟公綽の無欲、卞莊子の勇気、冉求の才知を備えて、「礼楽」規範と文化を以てこれを美しく飾れば、「成人」と言っていいだろうと。(さらに)孔先生がおっしゃった、今の「成人」は必ずしもその通りでなくてもいいだろう。利益を得るときには「義」正しいこと、道義を思い、危機に際しては一命を掛け、古い約束や普段の発言であっても忘れなければ、「成人」と言っていいだろうと。|「論語」憲問第十四13

【現代に活かす論語】
成人の条件は知識、無欲、勇気、才知とそのすべてにおいて礼儀が必要である。少なくとも、利益を得るのに正しいことと道徳的なことを意識し、覚悟と言行一致の信頼があれば成人と言えるだろう。

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00:00 章句の検討

10:10「憲問第十四」前半01 – 21 素読
2023.11.29収録

【解釈】

子路(しろ) … 季路(きろ)。姓は仲(ちゅう)、名は由(ゆう)、字は子路(しろ)・季路(きろ)。孔子より九歳若い。孔子のボディガード役を果たした。「論語」の登場人物|論語、素読会

臧武仲(ぞうぶちゅう) … 魯の大夫。臧文仲(ぞうぶんちゅう)の孫。「論語」の登場人物|論語、素読会

公綽(こうしょう) … 孟公綽(もうこうしょう)。魯の大夫。「論語」の登場人物|論語、素読会

卞莊子(べんしょうし) … 魯の卞地方の大夫。勇気があり、虎を刺し殺したという。「論語」の登場人物|論語、素読会

冉求(ぜんきゅう) … 冉有(ぜんゆう)。姓は冉(ぜん)、名は求(きゅう)また有(ゆう)。字は子有(しゆう)。孔子より二十九歳若い。温和な性格だったようです。「論語」の登場人物|論語、素読会

子路成人を問う。子曰わく、臧武仲の知、公綽の不欲、卞莊子の勇、冉求の芸の若き、之を文るに礼楽を以てせば、亦以て成人と為すべし。曰わく、今の成人は、何ぞ必ずしも然らん。利を見ては義を思い、危きを見ては命を授け、久要平生の言を忘れざる、亦以て成人と為すべし。|「論語」憲問第十四13
子路問成人。子曰、若臧武仲之知、公綽之不欲、卞莊子之勇、冉求之芸、文之以礼楽、亦可以為成人矣。曰、今之成人者、何必然。見利思義、見危授命、久要不忘平生之言、亦可以為成人矣。

「成人」(せいじん)は学問・道徳をかねそなえた完璧な人物。「知」(ち)は知恵、ひととして生きるための本当の知恵。『知』とは?|論語、素読会 「礼楽」(れいがく)は規範と文化。『礼』とは?|論語、素読会 「勇」(ゆう)は勇敢な、勇猛な。「芸」(げい)は才能、才知、学問、武芸。「若」(ごとき)は[ある事柄について一つの側面を論じている際に、話題を別の側面に転じる場合に用いる。]「文」(かざる)は美しく施す。「然」(しかり)は正しい、その通りである。「義」(ぎ)は正しいこと。道義。『義』とは?|論語、素読会 「危」(あやうき)は困難、災難。「命」(めい)は「授」(さずける)は与え、わたす。「久要」(きゅうよう)は以前からの約束、年来のちかい、久約。「平生」(へいせい)はひごろ、ふだん。

子路が「成人」学問・道徳をかねそなえた完璧な人物について尋ねた。孔先生がおっしゃった、臧武仲の知恵、孟公綽の無欲、卞莊子の勇気、冉求の才知を備えて、「礼楽」規範と文化を以てこれを美しく飾れば、「成人」と言っていいだろうと。(さらに)孔先生がおっしゃった、今の「成人」は必ずしもその通りでなくてもいいだろう。利益を得るときには「義」正しいこと、道義を思い、危機に際しては一命を掛け、古い約束や普段の発言であっても忘れなければ、「成人」と言っていいだろうと。

【解説】

「成人」とはどのような人のことを指すのでしょうか。当時の完成した人間、成熟した人間、ある程度の年齢になったとき必要とされる資質の条件なのではないでしょうか。孔子の言葉では、「知」「不欲(無欲)」「勇」「芸(才知)」「礼楽」を兼ね備えていることを条件としているものの、当時の状況に鑑みて条件を少し緩め、「義」「勇」「信」を条件としていることからも、この時代に合わせた成人像というものが浮かび上がります。そしてそれは「君子」のように不変的ではないようです。
文献によっては、「成人」は「聖人」と同様であるかのように感じる解釈もありますが、私は違うように思います。
注目したいのは、大夫三名に並んで冉求が取り上げられている点です。冉求は季氏の宰となったということから、敢えて冉求を例に加えたのは孔子の優しさではないでしょうか。


「論語」参考文献|論語、素読会
憲問第十四12< | >憲問第十四14


【原文・白文】
 子路問成人。子曰、若臧武仲之知、公綽之不欲、卞莊子之勇、冉求之芸、文之以礼楽、亦可以為成人矣。曰、今之成人者、何必然。見利思義、見危授命、久要不忘平生之言、亦可以為成人矣。
<子路問成人。子曰、若臧武仲之知、公綽之不欲、卞莊子之勇、冉求之藝、文之以禮樂、亦可以爲成人矣。曰、今之成人者、何必然。見利思義、見危授命、久要不忘平生之言、亦可以爲成人矣。>

(子路成人を問う。子曰わく、臧武仲の知、公綽の不欲、卞莊子の勇、冉求の芸の若き、之を文るに礼楽を以てせば、亦以て成人と為すべし。曰わく、今の成人は、何ぞ必ずしも然らん。利を見ては義を思い、危きを見ては命を授け、久要平生の言を忘れざる、亦以て成人と為すべし。)
【読み下し文】
 子路(しろ)成人(せいじん)を問(と)う。子(し)曰(のたま)わく、臧武仲(ぞうぶちゅう)の知(ち)、公綽(こうしゃく)の不欲(ふよく)、卞莊子(べんそうし)の勇(ゆう)、冉求(ぜんきゅう)の芸(げい)の若(ごと)き、之(これ)を文(かざ)るに礼楽(れいがく)を以(もっ)てせば、亦(また)以(もっ)て成人(せいじん)と為(な)すべし。曰(のたま)わく、今(いま)の成人(せいじん)は、何(なん)ぞ必(かなら)ずしも然(しか)らん。利(り)を見(み)ては義(ぎ)を思(おも)い、危(あやう)きを見(み)ては命(いのち)を授(さず)け、久要(きゅうよう)平生(へいせい)の言(げん)を忘(わす)れざる、亦(また)以(もっ)て成人(せじん)と為(な)すべし。


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