論語、素読会

燓遅仁を問う。子曰わく、人を愛す|「論語」顔淵第十二22

燓遅が「仁」思いやりの心について尋ねた。孔先生がおっしゃった、人を愛することだよ。(続けて)「知」について尋ねた。孔先生がおっしゃった、人を知るということだよ。燓遅はなかなか理解できないでいた。孔先生がおっしゃった、正しい人物を採用してその人を不正な人物の上に置けば、不正な人物を素直にさせることができる、と。燓遅が(孔先生の前から)退いて、子夏を訪ねて言った、以前、私は孔先生にお会いして「知」について訪ねました。孔先生がおっしゃるには正しい人物を採用してその人を不正な人物の上に置けば、不正な人物を素直にさせることができると。どういう意味でしょうか。子夏が言った、示唆に富んだお言葉だね。舜が天下を有していたとき、民衆から選んで皐陶を用いたところ、不仁者、思いやりがない人が姿を消していった。湯王が天下を有していたとき、民衆から選んで伊尹を用いたところ、不仁者、思いやりがない人が姿を消していった。(そういうことがあったそうですと。)|「論語」顔淵第十二22

【現代に活かす論語】
思いやりとは人を愛することです。

正しい人物を採用してトップに据えれば、その下の者は素直にさせることができる。

『論語、素読会』YouTube動画
00:00 章句の検討

19:15「顔淵第十二」後半14 – 24 素読
2023.06.15収録

【解釈】

樊遅(はんち) … 姓は樊(はん)、名は須(す)、字は子遅(しち)。孔子より三十四歳若い。孔子が移動に使う牛車の御者(運転手)を務めた。「論語」の登場人物|論語、素読会

子夏(しか) … 商(しょう)。姓は卜(ぼく)、名は商(しょう)、字(あざな)は子夏(しか)。孔子より四十四歳年下。「論語」の登場人物|論語、素読会

舜(しゅん) … 堯・舜・禹(ぎょう・しゅん・う)。伝説上の天子、帝王。舜は尭から禅譲[帝王がその位を世襲せず、有徳者に譲ること]した。禹は舜に推されて王となり、夏王朝を開いたとされる。「論語」の登場人物|論語、素読会

皐陶(こうよう) … 上古(大昔。文字が存在する以前の時代。)の伝説上の政治家。舜に仕え法律・刑罰をつかさどった。「論語」の登場人物|論語、素読会

湯(とう) … 湯王(とうおう)。商(殷)王朝の創始者。暴虐な夏の桀王を倒し、殷王朝を開いた。「論語」の登場人物|論語、素読会

伊尹(いいん) … 殷(いん)の名宰相。名は摯(し)。湯王(とうおう)が夏(か)の桀王(けつおう)を滅ぼすのを助け、以後三代にわたって国事を取り仕切った。阿衡 (あこう)《摂政・関白の異称》。「論語」の登場人物|論語、素読会

燓遅仁を問う。子曰わく、人を愛す。知を問う。子曰わく、人を知る。樊遅未だ達せず。子曰わく、直きを挙げて諸を枉れるに錯けば、能く枉れる者をして直からしむ。樊遅退きて、子夏に見えて曰わく、郷に吾夫子に見えて知を問う。子曰わく、直きを挙げて諸を枉れるに錯けば、能く枉れる者をして直からしむと。何の謂ぞや。子夏曰わく、富めるかな言や。舜天下を有ち、衆に選びて、皐陶を挙げ、不仁の者遠ざかる。湯天下を有ち、衆に選びて、伊尹を挙げ、不仁の者遠ざかる。|「論語」顔淵第十二22
燓遅問仁。子曰、愛人。問知。子曰、知人。樊遅未達。子曰、挙直錯諸枉、能使枉者直。樊遅退、見子夏曰、郷也吾見於夫子而問知。子曰、挙直錯諸枉、能使枉者直。何謂也。子夏曰、富哉言乎。舜有天下、選於衆、挙皐陶、不仁者遠矣。湯有天下、選於衆、挙伊尹、不仁者遠矣。

「知」(ち)は知恵、ひととして生きるための本当の知恵。『知』『智』とは?|論語、素読会 「達」(たっす)はさとる、理解する。「挙」(あげる)は推薦する、選抜する。「直」(なおす)は正直な人、性格が素直なさま。「錯」(おく)は物は人の上にすえ置く。「諸」(これ)はかれら、これら。「枉」(まがる)は不正で、よこしまな人物。「能」(よく)はできる。「使」(せしむ)はさせる。「見」(まみえる)は《会うの謙譲語》拝謁する。「郷」(さきに)は以前。「夫子」(ふうし)は孔子のこと。「富」(とむ)は分量や内容が多い。「不仁」(ふじん)は仁の心がない、むごくてあらあらしい、残忍なさま。「仁」(じん)は思いやりの心、仁者は私心がなく思いやりの心を持ったひと。『仁』とは?|論語、素読会 「遠」(とおざける)は離れていく。

燓遅が「仁」思いやりの心について尋ねた。孔先生がおっしゃった、人を愛することだよ。(続けて)「知」について尋ねた。孔先生がおっしゃった、人を知るということだよ。燓遅はなかなか理解できないでいた。孔先生がおっしゃった、正しい人物を採用してその人を不正な人物の上に置けば、不正な人物を素直にさせることができる、と。燓遅が(孔先生の前から)退いて、子夏を訪ねて言った、以前、私は孔先生にお会いして「知」について訪ねました。孔先生がおっしゃるには正しい人物を採用してその人を不正な人物の上に置けば、不正な人物を素直にさせることができると。どういう意味でしょうか。子夏が言った、示唆に富んだお言葉だね。舜が天下を有していたとき、民衆から選んで皐陶を用いたところ、不仁者、思いやりがない人が姿を消していった。湯王が天下を有していたとき、民衆から選んで伊尹を用いたところ、不仁者、思いやりがない人が姿を消していった。(そういうことがあったそうですと。)

【解説】

この章句から学ぶことをいくつか考えてみます。まず孔子が移動する際の御者を務める燓遅が「仁」つづいて「知」について尋ねるという場面です。このひとつ前の章句では、「徳を高くすること」「悪いところを直すこと」「迷わないこと」とという具体的な三点について尋ねていますが、この章句で尋ねるのが、孔子の学び舎の大きなテーマであるため、燓遅はなかなか理解が進まなかったということが説明されています。孔子の前から退出したものの、実際に腑に落ちなかった燓遅が年下の子夏に後日尋ねたのです。このことから想像できるのは、恐らく子夏が入門するより前から常に孔子に帯同していた燓遅は、特に優秀だったわけではなく、それでいて勉強熱心に慎ましやかに孔子に仕えていたのではないかということです。年下の子夏には話しやすかったのか、子夏を認めていたということがうかがえます。また、素直に尋ねる様子は孔子の学び舎の温かな雰囲気を覗かせます。
この先輩からの問いに対して子夏は、孔子が規範としている舜の政治家・殷の宰相を例に説明をしています。自分の解釈をひけらかすというより、具体例を出して説明するあたり、子夏の勉強熱心な部分と温和な性格がうかがえます。素直に尋ねられる先輩と実直に答える後輩の図は孔子門下では決して珍しくない光景だったのだろうと思います。
孔子が如何に先人の政治を参考にしていたかという点、そしてそれが弟子たちに浸透していたかという点が分かってとても興味深い章句です。
そして、この論語の編集者は顔淵篇の終盤に孔子たちが目標にしていた舜・殷の徳政を印象的に説明することに成功しているのではないでしょうか。

直きを挙げて諸を枉れるに錯けば、能く枉れる者をして直からしむと」同様の表現の章句があります。「直きを挙げて諸を枉れるに錯けば、則ち民服す|「論語」為政第二19」こちらの章句では、魯の君主、哀公から民を従わせるにはどうしたらいいかとう問いに答えています。上の者が模範を示してこそという孔子の考えを子夏も理解していたことが分かります。


「論語」参考文献|論語、素読会
顔淵第十二21< | >顔淵第十二23


【原文・白文】
 燓遅問仁。子曰、愛人。問知。子曰、知人。樊遅未達。子曰、挙直錯諸枉、能使枉者直。樊遅退、見子夏曰、郷也吾見於夫子而問知。子曰、挙直錯諸枉、能使枉者直。何謂也。子夏曰、富哉言乎。舜有天下、選於衆、挙皐陶、不仁者遠矣。湯有天下、選於衆、挙伊尹、不仁者遠矣。
<樊遲問仁。子曰、愛人。問知。子曰、知人。樊遲未達。子曰、舉直錯諸枉、能使枉者直。樊遲退、見子夏曰、鄕也吾見於夫子而問知。子曰、舉直錯諸枉、能使枉者直。何謂也。子夏曰、富哉言乎。舜有天下、選於衆、舉皐陶、不仁者遠矣。湯有天下、選於衆、舉伊尹、不仁者遠矣。>

(燓遅仁を問う。子曰わく、人を愛す。知を問う。子曰わく、人を知る。樊遅未だ達せず。子曰わく、直きを挙げて諸を枉れるに錯けば、能く枉れる者をして直からしむ。樊遅退きて、子夏に見えて曰わく、郷に吾夫子に見えて知を問う。子曰わく、直きを挙げて諸を枉れるに錯けば、能く枉れる者をして直からしむと。何の謂ぞや。子夏曰わく、富めるかな言や。舜天下を有ち、衆に選びて、皐陶を挙げ、不仁の者遠ざかる。湯天下を有ち、衆に選びて、伊尹を挙げ、不仁の者遠ざかる。)
【読み下し文】
 燓遅(はんち)仁(じん)を問(と)う。子(し)曰(のたま)わく、人(ひと)を愛(あい)す。知(ち)を問(と)う。子(し)曰(のたま)わく、人(ひと)を知(し)る。樊遅(はんち)未(いま)だ達(たっ)せず。子(し)曰(のたま)わく、直(なお)きを挙(あ)げて諸(これ)を枉(まが)れるに錯(お)けば、能(よ)く枉(まが)れる者(もの)をして直(なお)からしむ。樊遅(はんち)退(しりぞ)きて、子夏(しか)に見(み)えて曰(い)わく、郷(さき)に吾(われ)夫子(ふうし)に見(み)えて知(ち)を問(と)う。子(し)曰(のたま)わく、直(なお)きを挙(あ)げて諸(これ)を枉(まが)れるに錯(お)けば、能(よ)く枉(まが)れる者(もの)をして直(なお)からしむと。何(なん)の謂(いい)ぞや。子夏(しか)曰(い)わく、富(と)めるかな言(げん)や。舜(しゅん)天下(てんか)を有(たも)ち、衆(しゅう)に選(えら)びて、皐陶(こうよう)を挙(あ)げ、不仁(ふじん)の者(もの)遠(とお)ざかる。湯(とう)天下(てんか)を有(たも)ち、衆(しゅう)に選(えら)びて、伊尹(いいん)を挙(あ)げ、不仁(ふじん)の者(もの)遠(とお)ざかる。


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