論語、素読会

使なるかな使なるかな|「論語」憲問第十四26

衛の大夫・蘧伯玉が孔子に人を派遣してきた、孔子はその使者と向かい合って座り尋ねた。孔先生がおっしゃった、蘧先生はどうお過ごしですかと。(使者が)答えて言うには、先生は自分の失敗を減らそうと望んで、未だにできずにおりますと。使者が孔子の前を退出した。孔先生がおっしゃった、立派な使者だなあ、見事な使者だなぁと。|「論語」憲問第十四26

【現代に活かす論語】
組織の上司が自分の失敗を減らそうと努力し、様子を聞かれた部下がそれを謙遜して伝える。部下として見事である。

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00:00 章句の検討

08:35「憲問第十四」後半22 – 46 素読
2024.1.12収録

【解釈】

蘧伯玉(きょはくぎょく) … 衛(えい)の大夫。蘧(ぎょ)は姓。名は(えん)。伯玉(はくぎょ)は字。「論語」の登場人物|論語、素読会

蘧伯玉人を孔子に使いせしむ。孔子之と坐して問う。曰わく、夫子何をか為す。対えて曰わく、夫子は其の過を寡なくせんと欲して、未だ能わざるなり。使者出ず。子曰わく、使なるかな使なるかな。|「論語」憲問第十四26
蘧伯玉使人於孔子。孔子与之坐而問焉。曰、夫子何為。対曰、夫子欲寡其過、而未能也。使者出。子曰、使乎使乎。

「使」(つかう)は出向かせる、派遣する。「之」(これ)はかれ、かれら、三人称。「夫子」(ふうし)は先生に対する尊称。「対」(こたえる)は上位者からの質問に答える。「其」(その)はわたしの、あなたの、かれの、それの。「過」(あやまち)は失敗。「寡」(すくなくす)はわずかにする、減らす。「能」(あたう)は…できる。

衛の大夫・蘧伯玉が孔子に人を派遣してきた、孔子はその使者と向かい合って座り尋ねた。孔先生がおっしゃった、蘧先生はどうお過ごしですかと。(使者が)答えて言うには、先生は自分の失敗を減らそうと望んで、未だにできずにおりますと。使者が孔子の前を退出した。孔先生がおっしゃった、立派な使者だなあ、見事な使者だなぁと。

【解説】

この章句で伝えたいことは何でしょう。使者の役割、為すべきことを示した章句であることは間違いありませんが、では孔子が思わず褒めるほどの使者の役割とはどんなことなのでしょうか。
たとえば、以下の章句では、詩経三百に精通していても、他国に派遣されて単独で応対できなければ使いものにならないと言っています。使者の役割は大変重要で孔子門下での学びはそのために行っているのだということです。
詩経三百編を暗誦し(暗誦するほど精通し)、この人を任命して政治を任せたが任務を遂げることができず。周囲の国々に派遣して、単独で応対させることができなければ、多くの詩を覚えているとしても何ができるというのだろうか。(何の役にも立たない。)|「論語」子路第十三05
また、他国への使者として、主君の指令を辱めることなく伝えるのが優れた役人であるとも言います。
どんな人物を(すぐれた)役人と言うことができるでしょうかと。孔先生がおっしゃった、自分の行いに恥がある(恥じるようなことをしない)。周囲の国々に遣いとして君の指令を辱めることなく伝えるのは(すぐれた)役人と言うことができるだろうと。|「論語」子路第十三20
本章句は弟子を相手に話していると考えられるので、ここで紹介した章句同様、役人を目指している弟子たちに向けたメッセージが込められています。孔子が使者の上司である蘧伯玉の様子について尋ねたところ、使者は謙遜して上司の様子を伝えています。またその内容も相手が孔子であることを考慮しているようにも感じます。このような臨機応変な対応に注目させることで、弟子たちの成長を促したと考えていいのではないでしょうか。


「論語」参考文献|論語、素読会
憲問第十四25< | >憲問第十四27


【原文・白文】
 蘧伯玉使人於孔子。孔子与之坐而問焉。曰、夫子何為。対曰、夫子欲寡其過、而未能也。使者出。子曰、使乎使乎。
<蘧伯玉使人於孔子。孔子與之坐而問焉。曰、夫子何爲。對曰、夫子欲寡其過、而未能也。使者出。子曰、使乎使乎。>

(蘧伯玉人を孔子に使いせしむ。孔子之と坐して問う。曰わく、夫子何をか為す。対えて曰わく、夫子は其の過を寡なくせんと欲して、未だ能わざるなり。使者出ず。子曰わく、使なるかな使なるかな。)
【読み下し文】
 蘧伯玉(きょはくぎょく)人(ひと)を孔子(こうし)に使(つか)いせしむ。孔子(こうし)之(これ)と坐(ざ)して問(と)う。曰(のたま)わく、夫子(ふうし)何(なに)をか為(な)す。対(こた)えて曰(のたま)わく、夫子(ふうし)は其(そ)の過(あやまち)を寡(すく)なくせんと欲(ほっ)して、未(まだ)だ能(あた)わざるなり。使者(ししゃ)出(い)ず。子(し)曰(のたま)わく、使(し)なるかな使(し)なるかな。


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