論語、素読会

故に君子は之に名づくれば、必ず言うべきなり。之を言えば、必ず行うべきなり|「論語」子路第十三03

子路が言った、衛の国の君が、孔先生を迎えて政治を行うとしたら、先生は何を先になさりたいですかと。孔先生がおっしゃった、きっと地位とその本分、実体と名目を一致させるであろうと。子路が言った、これだから、先生は世事に疎いといわれるのです。どうして名目を正さなければならないのですかと。孔先生がおっしゃった、がさつだなあ由(子路)は、君子(人の上に立つ立派な人)はその知らないことについては、そもそもそのままにしておくものだ。名目が正しくなければ(その人の)言葉は道理にかなわない。言葉が道理にかなわなければ、物事が成就しない。物事が成就しなければ規範や文化(礼楽)は形成されない。規範や文化が形成されなければ、刑罰が適切に行われない。刑罰が適切でなければ、人民が身を置くところがなくなる。だからこそ、君子(人の上に立つ立派な人)はその地位に就いたならば、必ず相応しい発言をしなければならない。言ったことは必ず実行しなければならない。君子(人の上に立つ立派な人)はその発言をいい加減にすることはないよ。|「論語」子路第十三03

【現代に活かす論語】
リーダーは身分・地位に合った正しい行動をしなければ、言葉に説得力がない。言葉に説得力がなければ、物事は成就しない。物事が成就しなければ社内ルールや企業文化の醸成はない。企業文化が育たなければ、善し悪しの判断が適切に行われない。判断基準がブレれば部下は身の置き所がなくなる。であるからこそ、地位に合った言動をし、有言実行を心がけるのである。

『論語、素読会』YouTube動画
00:00 章句の検討

19:05「子路第十三」前半01 – 15 素読
2023.07.21収録

【解釈】

子路(しろ)由(ゆう) … 季路(きろ)仲由(ちゅうゆう)。姓は仲(ちゅう)、名は由(ゆう)、字は子路(しろ)・季路(きろ)。孔子より九歳若い。「論語」の登場人物|論語、素読会

子路曰わく、衛の君子を待ちて政を為さば、子将に奚をか先にせん。子曰わく、必ずや名を正さんか。子路曰わく、是有るかな、子の迂なるや。奚ぞ其れ正さん。子曰わく、野なるかな由や。君子は其の知らざる所に於ては、蓋し闕如たり。名正しからざれば、則ち言順わず。言順わざれば、則ち事成らず。事成らざれば、則ち礼楽興らず。礼楽興らざれば、則ち刑罰中らず。刑罰中らざれば、則ち民手足を錯く所無し。故に君子は之に名づくれば、必ず言うべきなり。之を言えば、必ず行うべきなり。君子其の言に於て、苟くもする所無きなり。|「論語」子路第十三03
子路曰、衛君待子而為政、子将奚先。子曰、必也正名乎。子路曰、有是哉、子之迂也。奚其正。子曰、野哉由也。君子於其所不知、蓋闕如也。名不正、則言不順。言不順、則事不成。事不成、則礼楽不興。礼楽不興、則刑罰不中。刑罰不中、則民無所錯手足。故君子名之、必可言也。言之、必可行也。君子於其言、無所苟而已矣。

「君」(きみ)は統治者の通称、王者、天子・諸侯・卿・大夫など。「子」(し)は先生、孔子のことを指す。「待」(まつ)は[時間や人の到来などを]迎える、まちうける。「将」(まさに)は…したい。「奚」(なに)は何と同じ。「名」(な)は身分や地位、また、それに応じて守るべき本分。「正名」(せいめい)は実体と名目を一致させる。「迂」(う)は実際に即していないさま、世事にうとい。「野」(や)は教養がなく洗練されていないさま。「蓋」(けだし)はそもそも。「闕如」(けつじょ)は欠けたままにしておく。「則」(すなわち)は…ならば。「順」(したがう)は道理にかなう。「礼楽」(れいがく)は規範と文化。『礼』とは?|論語、素読会 「興」(おこる)は形成される。「中」(あたる)は適切で正しい。「無所錯手足」(しゅそくをおくところなし)は手足をのばしておくところがない、安心して身を置くところがないさま。「苟」(いやしく)はその場をいいかげんに過ごすために。

子路が言った、衛の国の君が、孔先生を迎えて政治を行うとしたら、先生は何を先になさりたいですかと。孔先生がおっしゃった、きっと地位とその本分、実体と名目を一致させるであろうと。子路が言った、これだから、先生は世事に疎いといわれるのです。どうして名目を正さなければならないのですかと。孔先生がおっしゃった、がさつだなあ由(子路)は、君子(人の上に立つ立派な人)はその知らないことについては、そもそもそのままにしておくものだ。名目が正しくなければ(その人の)言葉は道理にかなわない。言葉が道理にかなわなければ、物事が成就しない。物事が成就しなければ規範や文化(礼楽)は形成されない。規範や文化が形成されなければ、刑罰が適切に行われない。刑罰が適切でなければ、人民が身を置くところがなくなる。だからこそ、君子(人の上に立つ立派な人)はその地位に就いたならば、必ず相応しい発言をしなければならない。言ったことは必ず実行しなければならない。君子(人の上に立つ立派な人)はその発言をいい加減にすることはないよ。

【解説】

文献によれば「衛の国の君」は出公輒(しゅっこうちょう)であるとのことですが、こちらでは、特にその背景については考慮せずに解釈したいと思います。孔子は別の章句でも季氏が身分不相応な祭祀を執り行うことなど、「名」地位や名目にそぐわない行動を問題視していました。国を治める人物が身分や地位に合った言動を行うことこそ、政治の根幹で、国の安定、人心の掌握に繋がると考えていました。この章句は大変示唆に富んだ内容だと思います。
また、子路と孔子の関係性を想像させる章句でもあります。子路は孔子に意見を聞いておきながら、孔子を少々馬鹿にするような意見をするような言い方をしています。これに対して、君子(孔門が目標にしている人物像)は知らないことに対してべらべら話さないものだ。と、尋ねてきたにも関わらず軽口をたたく子路をピシャリと叱っています。その上で、立て板に水の如く、名目を正すことの意義を伝えるのです。これには子路もぐうの音も出ません。


「論語」参考文献|論語、素読会
子路第十三02< | >子路第十三04


【原文・白文】
 子路曰、衛君待子而為政、子将奚先。子曰、必也正名乎。子路曰、有是哉、子之迂也。奚其正。子曰、野哉由也。君子於其所不知、蓋闕如也。名不正、則言不順。言不順、則事不成。事不成、則礼楽不興。礼楽不興、則刑罰不中。刑罰不中、則民無所錯手足。故君子名之、必可言也。言之、必可行也。君子於其言、無所苟而已矣。
<子路曰、衞君待子而爲政、子將奚先。子曰、必也正名乎。子路曰、有是哉、子之迂也。奚其正。子曰、野哉由也。君子於其所不知、蓋闕如也。名不正、則言不順。言不順、則事不成。事不成、則禮樂不興。禮樂不興、則刑罰不中。刑罰不中、則民無所錯手足。故君子名之、必可言也。言之、必可行也。君子於其言、無所苟而已矣。>

(子路曰わく、衛の君子を待ちて政を為さば、子将に奚をか先にせん。子曰わく、必ずや名を正さんか。子路曰わく、是有るかな、子の迂なるや。奚ぞ其れ正さん。子曰わく、野なるかな由や。君子は其の知らざる所に於ては、蓋し闕如たり。名正しからざれば、則ち言順わず。言順わざれば、則ち事成らず。事成らざれば、則ち礼楽興らず。礼楽興らざれば、則ち刑罰中らず。刑罰中らざれば、則ち民手足を錯く所無し。故に君子は之に名づくれば、必ず言うべきなり。之を言えば、必ず行うべきなり。君子其の言に於て、苟くもする所無きなり。)
【読み下し文】
 子路(しろ)曰(い)わく、衛(えい)の君(きみ)子(し)を待(ま)ちて政(まつりごと)を為(な)さば、子(し)将(まさ)に奚(なに)をか先(さき)にせん。子(し)曰(のたま)わく、必(かなら)ずや名(な)を正(ただ)さんか。子路(しろ)曰(い)わく、是(これ)有(あ)るかな、子(し)の迂(う)なるや。奚(なん)ぞ其(そ)れ正(ただ)さん。子(し)曰(のたま)わく、野(や)なるかな由(ゆう)や。君子(くんし)は其(そ)の知(し)らざる所(ところ)に於(おい)ては、蓋(けだ)し闕如(けつじょ)たり。名(な)正(ただ)しからざれば、則(すなわ)ち言(げん)順(したが)わず。言(げん)順(したが)わざれば、則(すなわ)ち事(こと)成(な)らず。事(こと)成(な)らざれば、則(すなわ)ち礼楽(れいがく)興(お)らず。礼楽(れいがく)興(お)らざれば、則(すなわ)ち刑罰(けいばつ)中(あた)らず。刑罰(けいばつ)中(あた)らざれば、則(すなわ)ち民(たみ)手足(しゅそく)を錯(お)く所(ところ)無(な)し。故(ゆえ)に君子(くんし)は之(これ)に名(な)づくれば、必(かなら)ず言(い)うべきなり。之(これ)を言(い)えば、必(かなら)ず行(おこな)うべきなり。君子(くんし)其(そ)の言(げん)に於(おい)て、苟(いやし)くもする所(ところ)無(な)きなり。


「論語」参考文献|論語、素読会
子路第十三02< | >子路第十三04


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