論語、素読会

民信無くんば立たず|「論語」顔淵第十二07

子貢が政事について尋ねた。孔先生がおっしゃった、食糧を充実させ、軍備を充実させ、人民には「信」つまり信頼に足る行動をし嘘をつかないようにさせることだよ。子貢は尋ねて言った、どうしてもやむを得ず除くとすれば、この三つのうちどれを先にすればよいでしょうと。孔先生がおっしゃった、軍備を除こうと。子貢が(さらに)尋ねて言った、どうしてもやむを得ず除くとすれば、この二つのうちどれを先にすればよいでしょうと。孔先生がおっしゃった、食糧を除こう。昔からひとはみな死ぬものだが、人民に「信」が無ければ(政事が)成り立たないよと。|「論語」顔淵第十二07

【現代に活かす論語】
人民が「信」つまり信頼される行動をし嘘をつかないようにする徳政こそ、政治にとって一番大切なことです。

『論語、素読会』YouTube動画
00:00 章句の検討

11:40「顔淵第十二」前半01 – 13 素読
2023.04.28収録

【解釈】

子貢(しこう) … 姓は端木(たんぼく)、名は賜(し)、字は子貢(しこう)。孔子より三十一歳若い。「論語」の登場人物|論語、素読会

子貢政を問う。子曰わく、食を足し、兵を足し、民之を信にす。子貢曰わく、必ず已むを得ずして去らば、斯の三者に於て何れをか先にせん。曰わく、兵を去らん。子貢曰わく、必ず已むを得ずして去らば、斯の二者に於て何れをか先にせん。曰わく、食を去らん。古自り皆死有り。民信無くんば立たず。|「論語」顔淵第十二07
子貢問政。子曰、足食、足兵、民信之矣。子貢曰、必不得已而去、於斯三者何先。曰、去兵。子貢曰、必不得已而去、於斯二者何先。曰、去食。自古皆有死。民無信不立。

「足」(たす)は充実しているさま、十分にそなわっているさま。「信」(しん)は、信頼に足る行動をとることや、嘘をつかないこと。『信』とは?|論語、素読会 「必」(かならず)はどうしても。「去」(さる)は除きさる、取り払う。「古」(いにしえ)は遠い昔。「自」(よる)は由来する。

子貢が政事について尋ねた。孔先生がおっしゃった、食糧を充実させ、軍備を充実させ、人民には「信」つまり信頼に足る行動をし嘘をつかないようにさせることだよ。子貢は尋ねて言った、どうしてもやむを得ず除くとすれば、この三つのうちどれを先にすればよいでしょうと。孔先生がおっしゃった、軍備を除こうと。子貢が(さらに)尋ねて言った、どうしてもやむを得ず除くとすれば、この二つのうちどれを先にすればよいでしょうと。孔先生がおっしゃった、食糧を除こう。昔からひとはみな死ぬものだが、人民に「信」が無ければ(政事が)成り立たないよと。

【解説】

弟子の中でも優秀な子貢が政事について孔子に尋ねている章句です。すでに色々なことを学んで任官していたか、またはその素質を備えていた子貢ですから、孔子はより具体的に答えています。子貢でなければこのような回答を引き出せなかったという解釈に私も同意します。論語の特徴的な表現として、順位を付けるならばといわず、除いていくならばといういい方をします。この表現により、最後に残った、人民が「信」を携えること、そのような政事をすることが最も大事であるということを印象的に伝えることができるのです。
この章句に最初に向き合ったとき、食糧と軍備を充実させることにより人民から信頼を受けるという解釈なのかと思いましたが、孔子が子貢に伝えたかったことは、徳政を行い、人民の生活の中から不信や欺くことを無くしていくことが為政者のやるべきことであるということに気付きました。「国を法律や制度をもって導き、刑罰で統制しようとするならば、国民はただその刑を逃れるだけで何も恥じなくなる。道徳によって導き、礼儀や儀礼を伝えて統制していくと、人民は自分を恥じて自らを省みて、自ずと正して善に向かっていくようになる。之を道くに徳を以てし、之を斉うるに礼を以てすれば|「論語」為政第二03」孔子が伝えたかったのは、このような徳政であり、食糧・防衛といった政策と同等もしくはそれ以上に重要な要素であると伝えたかったのだと思います。
この章句からは孔子の子貢に対する大変深い信頼が伝わってきます。とても味わい深い章句だと思います。


「論語」参考文献|論語、素読会
顔淵第十二06< | >顔淵第十二08


【原文・白文】
 子貢問政。子曰、足食、足兵、民信之矣。子貢曰、必不得已而去、於斯三者何先。曰、去兵。子貢曰、必不得已而去、於斯二者何先。曰、去食。自古皆有死。民無信不立。

(子貢政を問う。子曰わく、食を足し、兵を足し、民之を信にす。子貢曰わく、必ず已むを得ずして去らば、斯の三者に於て何れをか先にせん。曰わく、兵を去らん。子貢曰わく、必ず已むを得ずして去らば、斯の二者に於て何れをか先にせん。曰わく、食を去らん。古自り皆死有り。民信無くんば立たず。)
【読み下し文】
 子貢(しこう)政(まつりごと)を問(と)う。子(し)曰(のたま)わく、食(しょく)を足(た)し、兵(へい)を足(た)し、民(たみ)之(これ)を信(しん)にす。子貢(しこう)曰(い)わく、必(かなら)ず已(や)むを得(え)ずして去(さ)らば、斯(こ)の三者(さんしゃ)に於(おい)て何(いず)れをか先(さき)にせん。曰(のたま)わく、兵(へい)を去(さ)らん。子貢(しこう)曰(い)わく、必(かなら)ず已(や)むを得(え)ずして去(さ)らば、斯(こ)の二者(にしゃ)に於(おい)て何(いず)れをか先(さき)にせん。曰(のたま)わく、食(しょく)を去(さ)らん。古(いにしえ)自(よ)り皆(みな)死(し)有(あ)り。民(たみ)信(しん)無(な)くんば立(た)たず。


「論語」参考文献|論語、素読会
顔淵第十二06< | >顔淵第十二08


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