論語、素読会

文は猶質のごとく、質は猶文のごときなり|「論語」顔淵第十二08

棘子成がいうには、人の上に立つ立派な人〔君子)は資質のみである。どうして教養を身につける必要があるだろうかと。子貢が言った、惜しいですね、あなたが君子について語るのは、「一度口にしたことばは四頭立ての馬車で追いかけても追い付けない」という例えにあるように、ことばを慎むべきですねと。教養は資質と同じであり、資質は教養と同じである。トラやヒョウの毛を取ってしまった皮は、イヌやヒツジの皮と同じということ。(つまりトラやヒョウは毛があるから価値があるのであって、君子も資質だけでなく教養が大事なのである。)|「論語」顔淵第十二08

【現代に活かす論語】
資質と教養、人の上に立つ立派なリーダーにはどちらも大事です。

『論語、素読会』YouTube動画
00:00 章句の検討

11:50「顔淵第十二」前半01 – 13 素読
2023.05.09収録

【解釈】

棘子成(きょくしせい) … 衛(えい)の大夫「論語」の登場人物|論語、素読会

子貢(しこう) … 姓は端木(たんぼく)、名は賜(し)、字は子貢(しこう)。孔子より三十一歳若い。「論語」の登場人物|論語、素読会

棘子成曰わく、君子は質のみ。何ぞ文を以て為さん。子貢曰わく、惜しいかな、夫子の君子を説くや、駟も舌に及ばず。文は猶質のごとく、質は猶文のごときなり。虎豹の鞟は、猶犬羊の鞟のごときなり。|「論語」顔淵第十二08
棘子成曰、君子質而已矣。何以文為。子貢曰、惜乎、夫子之説君子也、駟不及舌。文猶質也、質猶文也。虎豹之鞟、猶犬羊之鞟。

「質」(しつ)は資質、性質、たち。「文」(ぶん)は礼楽制度、文化、教養、学術全般。「夫子」(ふうし)は男子の尊称。「説」(とく)は言う、語る、述べる。「駟」(し)は四頭立ての馬車。「駟不及舌」(しもしたにおよばず)は一度口にしたことばは四頭立ての馬車で追いかけても追い付けない、取り返しのつかない意で、ことばは慎むべきであることをいう。「猶」(なお)は同等や類似(A=B)であることを表す。「虎豹」(こひょう)はトラとヒョウ。「鞟」(かく)は毛をとり去った皮。「犬羊」(けんよう)はイヌとヒツジ。

棘子成がいうには、人の上に立つ立派な人〔君子)は資質のみである。どうして教養を身につける必要があるだろうかと。子貢が言った、惜しいですね、あなたが君子について語るのは、「一度口にしたことばは四頭立ての馬車で追いかけても追い付けない」という例えにあるように、ことばを慎むべきですねと。教養は資質と同じであり、資質は教養と同じである。トラやヒョウの毛を取ってしまった皮は、イヌやヒツジの皮と同じということ。(つまりトラやヒョウは毛があるから価値があるのであって、君子も資質だけでなく教養が大事なのである。)

【解説】

この子貢の回答の元になる章句をご紹介します。「子曰わく、質文に勝てば則ち野。文質に勝てば則ち史。文質彬彬として、然る後に君子なり。|「論語」雍也第六16」資質が教養に勝てば粗野であり、教養が資質に勝てば記録係の役人のようである。資質と教養がバランスよく整って後に君子になる。と孔子が語った章句です。
衛の国に子貢が行ったときのことなのでしょうか、衛の大夫(貴族)棘子成が孔子の高弟、子貢に君子について説くところから章句が始まります。衛の大夫ですからそれなりの位の人物が子貢に対して君子論を語るのですが、子貢は君子論を説くには未熟であると一蹴します。その表現は辛辣で、軽々しく言葉を発すると後で後悔するよ。といわんばかりの言い方です。孔子の弟子と聞いて、またその孔子が目指す君子像に棘子成が持論を展開したわけですが、子貢に見事に返り討ちにあってしまいます。資質と教養があってはじめて君子の器量であって、どちらが先でも後でもないと。きっと子貢の心の中では、あなたはイヌやヒツジの皮程度の価値?ではないでしょうね。と言いたかった、というのは考えすぎでしょうか。いずれにしても、弁の立つ子貢ならではの返答だといえるでしょう。


「論語」参考文献|論語、素読会
顔淵第十二07< | >顔淵第十二09


【原文・白文】
 棘子成曰、君子質而已矣。何以文為。子貢曰、惜乎、夫子之説君子也、駟不及舌。文猶質也、質猶文也。虎豹之鞟、猶犬羊之鞟。
<棘子成曰、君子質而已矣。何以文爲。子貢曰、惜乎、夫子之説君子也、駟不及舌。文猶質也、質猶文也。虎豹之鞟、猶犬羊之鞟。>

(棘子成曰わく、君子は質のみ。何ぞ文を以て為さん。子貢曰わく、惜しいかな、夫子の君子を説くや、駟も舌に及ばず。文は猶質のごとく、質は猶文のごときなり。虎豹の鞟は、猶犬羊の鞟のごときなり。)
【読み下し文】
 棘子成(きょくしせい)曰(い)わく、君子(くんし)は質(しつ)のみ。何(なん)ぞ文(ぶん)を以(もっ)て為(な)さん。子貢(しこう)曰(い)わく、惜(お)しいかな、夫子(ふうし)の君子(くんし)を説(と)くや、駟(し)も舌(し)に及(およ)ばず。文(ぶん)は猶(なお)質(しつ)のごとく、質(しつ)は猶(なお)文(ぶん)のごときなり。虎豹(こひょう)の鞟(かく)は、猶(なお)犬羊(けんよう)の鞟(かく)のごときなり。


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