論語、素読会

予は視ること猶子のごとくするを得ず|「論語」先進第十一10

顔淵が死んだ。弟子たちは彼を手厚く弔いたいと願い出た。孔先生がおっしゃった、それはできないと。(孔子の気持ちに反して)弟子たちは彼を手厚く弔った。孔先生がおっしゃった、回は私を父親のように思っていた。私は回を自分の子どものようにしてやれなかった。これは私ではない。(私の弟子である)彼らが行ったことなのだ。|「論語」先進第十一10

【現代に活かす論語】
葬式は形式が整うよりむしろ心から悲しむようにしてやりたい。

『論語、素読会』YouTube動画
00:00 章句の検討

15:30「先進第十一」前半1 – 16 素読
2023.02.07収録

【解釈】

顔淵(がんえん)、回(かい) … 姓は顔(がん)、名は回(かい)、字は子淵(しえん)。孔子より三十歳若い。孔子よりも早く、三十歳(一説では四十歳とも)で死んだ。秀才で、門人の中で一番の学問好き。孔子の第一の弟子ともいわれる。「論語」の登場人物|論語、素読会

顔淵死す。門人厚く之を葬らんと欲す。子曰わく、不可なり。門人厚く之を葬る。子曰わく、回や、予を視ること猶父のごとし。予は視ること猶子のごとくするを得ず。我に非ざるなり。夫の二三子なり。|「論語」先進第十一10
顔淵死。門人欲厚葬之。子曰、不可。門人厚葬之。子曰、回也、視予猶父也。予不得視猶子也。非我也。夫二三子也。

「門人」(もんじん)は弟子、ある特定の先生についてその教えを受ける者。「厚」(あつい)は深い、程度が高い。「視」(みる)はあしらう、観察する。「得」(える)はうまくいく、実現する。「非」(あらず)は〜ではない。「二三子」(にさんし)は諸君、君たち、先生が門人たちによびかけるときに使うことば。「夫」(かの)はあの、彼ら。

顔淵が死んだ。弟子たちは彼を手厚く弔いたいと願い出た。孔先生がおっしゃった、それはできないと。(孔子の気持ちに反して)弟子たちは彼を手厚く弔った。孔先生がおっしゃった、回は私を父親のように思っていた。私は回を自分の子どものようにしてやれなかった。これは私ではない。(私の弟子である)彼らが行ったことなのだ。

【解説】

孔子は、祭礼は派手にするよりもむしろ控えめにする方がよい。お葬式は形式が整うよりむしろ心から悲しむようにしなさい。子曰わく、大いなるかな問いや。礼は其の奢らんよりは寧ろ倹せよ。喪は其の易らんよりは寧ろ戚めよ。|「論語」八佾第三04」と言っています。亡くなった顔淵もこの孔子の学びに共感し実践したいと思っていたはずで、「予を視ること猶父のごとし」にそのニュアンスを含んでいると思います。孔子と顔淵の意に反して、弟子たちが恐らくこの当時の形式的な葬式を行ってしまったというのが、この章句の背景だと思われます。
解釈をするにあたり、「子曰、不可。門人厚葬之。」の後ろで一度場面が変わると考えました。前半では孔子の意見に対して弟子が独自の判断をしているところから、孔子と弟子の関係性もうかがえます。後半は、孔子の独白のように感じます。弟子たちが設えた葬式を終え、顔淵が臨んだであろう質素で心のこもった葬式ができたのだろうかという思いは、単に弟子たちのせいだと無責任に押しつけるのではなく、孔子自身の教えが弟子たちに伝わらない忸怩たる思いを滲ませているのではないでしょうか。「夫二三子」あの諸君なのだ。という言葉には、紛れもない孔子の弟子たちなのだという孔子の覚悟があると感じるのです。
また、顔淵の父、願路がかつて孔子の弟子であったということが真実であれば、「夫二三子」に喪主であったであろう父、願路が含まれることになります。


「論語」参考文献|論語、素読会
先進第十一09< | >先進第十一11


【原文・白文】
 顔淵死。門人欲厚葬之。子曰、不可。門人厚葬之。子曰、回也、視予猶父也。予不得視猶子也。非我也。夫二三子也。
<顏淵死。門人欲厚葬之。子曰、不可。門人厚葬之。子曰、回也、視予猶父也。予不得視猶子也。非我也。夫二三子也。>

(顔淵死す。門人厚く之を葬らんと欲す。子曰わく、不可なり。門人厚く之を葬る。子曰わく、回や、予を視ること猶父のごとし。予は視ること猶子のごとくするを得ず。我に非ざるなり。夫の二三子なり。)
【読み下し文】
 顔淵(がんえん)死(し)す。門人(もんじん)厚(あつ)く之(これ)を葬(ほうむ)らんと欲(ほっ)す。子(し)曰(のたま)わく、不可(ふか)なり。門人(もんじん)厚(あつ)く之(これ)を葬(ほうむ)る。子(し)曰(のたま)わく、回(かい)や、予(われ)を視(み)ること猶(なお)父(ちち)のごとし。予(われ)は視(み)ること猶(なお)子(こ)のごとくするを得(え)ず。我(われ)に非(あら)ざるなり。夫(か)の二三子(にさんし)なり。


「論語」参考文献|論語、素読会
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