季子然が尋ねた、仲由と冉求は大臣と言うべきだろうかと。孔先生がおっしゃった、私はあなたがこれを尋ねるのを意外と思います。どうして由と求について尋ねるのでしょうか。いわゆる大臣という者は、道理を以て君主に仕え、それが許されなければすぐに(職を)辞める。今、由と求はただ数をそろえるためだけの臣下であるというべきである、と。(季子然が)つづけて尋ねる、そうであるならば、私の言うことに従う者でしょうか。孔先生がおっしゃった、君主と父を殺すような指示には、決して従わないと。|「論語」先進第十一23
【現代に活かす論語】
高い官職に就く者は、道理を以て上司に仕え、道理が通らないときはその職を辞するべきである。
『論語、素読会』YouTube動画
00:00 章句の検討
15:00「郷先進第十一」後半19 – 25 素読
2023.03.08収録
【解釈】
季子然(きしぜん) … 魯の大夫、季平子の子。
仲由(ちゅうゆう)、由(ゆう) … 姓は仲(ちゅう)、名は由(ゆう)、字は子路(しろ)・季路(きろ)。孔子より九歳若く孔子門人の中で最年長。孔子のボディガード役を果たした。「論語」の登場人物|論語、素読会
冉求(ぜんきゅう)、求(きゅう) … 冉有(ぜんゆう)。姓は冉(ぜん)、名は求(きゅう)また有(ゆう)。字は子有(しゆう)。孔子より29歳若い。
季子然問う、仲由・冉求は大臣と謂うべきか。子曰わく、吾子を以て異なるを之れ問うと為す。曽ち由と求とを之れ問う。所謂大臣なる者は、道を以て君に事え、不可なれば則ち止む。今由と求とは、具臣と謂うべし。曰わく、然らば則ち之に従わん者か。子曰わく、父と君とを弑すれば、亦従わざるなり。|「論語」先進第十一23
季子然問、仲由冉求可謂大臣与。子曰、吾以子為異之問。曽由与求之問。所謂大臣者、以道事君、不可則止。今由与求也、可謂具臣矣。曰、然則従之者与。子曰、弑父与君、亦不従也。
「大臣」(だいじん)は高い官職についている臣下。「吾」(われ)はわたし。「子」(し)はあなた《相手に対する総称》。「以A為」(もってAとなす)は…と思う。「異」(ことなる)は一般的なものとちがっているさま、珍しい、独特である。「曽」(すなわち)はなぜ、どうして。「道」(みち)は道理、規律。『道』とは?|論語、素読会 「事」(つかえる)は仕える。「君」(きみ)は君主。「可」(か)は同意である、許す。「則」(すなわち)はすぐに。「止」(やむ)は中止する。「具臣」(ぐしん)は能力があるわけではなく、ただ数をそろえるためだけの臣下。「然則」(しからばすなわち)は、そうであるならば。「弑」(しいす)は父親を殺す。「亦」(また)は反語の語調を強める働きをする。
季子然が尋ねた、仲由と冉求は大臣と言うべきだろうかと。孔先生がおっしゃった、私はあなたがこれを尋ねるのを意外と思います。どうして由と求について尋ねるのでしょうか。いわゆる大臣という者は、道理を以て君主に仕え、それが許されなければすぐに(職を)辞める。今、由と求はただ数をそろえるためだけの臣下であるというべきである、と。(季子然が)つづけて尋ねる、そうであるならば、私の言うことに従う者でしょうか。孔先生がおっしゃった、君主と父を殺すような指示には、決して従わないと。
【解説】
魯の国の大夫、季子然が任用した子路と冉有について孔子に尋ねた章句です。この質問に対して孔子は辛辣な表現で皮肉を伝えています。まず冒頭は、自分が任用したふたりに対して不満があったのか、ふたりの態度、風格について師匠である孔子にその評価を尋ねる場面です。これに対して孔子はまず「これは意外な質問」と言って「大臣という職務の役割を本当にご存じか?」と皮肉を言います。大臣とは道理を以て君主に仕え、もし君主がその道理を理解しなければ、自ら職を辞する覚悟であるといい、まだ職務にある子路と冉有が辞職していないので具臣であると評価することで、季子然が道理から外れていることをはっきりと指摘しています。この皮肉に気付かない残念な季子然は、ならば彼の言うことを聞くのか?と孔子に尋ねます。想像するに、子路と冉有は季子然の言うことを中々聞かなかったのでしょう。そんな家臣に業を煮やして、君主に仕える優秀な部下であるのか?とふたりを送り出した孔子を問いただしたとも考えられます。この季子然の無神経な問いに対して、君主(この場合は王)とその父親を殺せというような指示には決して従わないと、これまた王を王と思っていない、扱っていない季子然ならびに季氏に対して、強烈な批判を叩き付けたのです。さすがの季子然もこれにはハッと我に返って孔子の真意に気付いたことでしょう。
「論語」参考文献|論語、素読会
先進第十一22< | >先進第十一24
【原文・白文】
季子然問、仲由冉求可謂大臣与。子曰、吾以子為異之問。曽由与求之問。所謂大臣者、以道事君、不可則止。今由与求也、可謂具臣矣。曰、然則従之者与。子曰、弑父与君、亦不従也。
<季子然問、仲由冉求可謂大臣與。子曰、吾以子爲異之問。曾由與求之問。所謂大臣者、以道事君、不可則止。今由與求也、可謂具臣矣。曰、然則從之者與。子曰、弑父與君、亦不從也。>
(季子然問う、仲由・冉求は大臣と謂うべきか。子曰わく、吾子を以て異なるを之れ問うと為す。曽ち由と求とを之れ問う。所謂大臣なる者は、道を以て君に事え、不可なれば則ち止む。今由と求とは、具臣と謂うべし。曰わく、然らば則ち之に従わん者か。子曰わく、父と君とを弑すれば、亦従わざるなり。)
【読み下し文】
季子然(きしぜん)問(と)う、仲由(ちゅうゆう)・冉求(ぜんきゅう)は大臣(だいじん)と謂(い)うべきか。子(し)曰(のたま)わく、吾(われ)子(し)を以(もっ)て異(こと)なるを之(こ)れ問(と)うと為(な)す。曽(すなわ)ち由(ゆう)と求(きゅう)とを之(こ)れ問(と)う。所謂(いわゆる)大臣(だいじん)なる者(もの)は、道(みち)を以(もっ)て君(きみ)に事(つか)え、不可(ふか)なれば則(すなわ)ち止(や)む。今(ま)由(ゆう)と求(きゅう)とは、具臣(ぐしん)と謂(い)うべし。曰(い)わく、然(しか)らば則(すなわ)ち之(これ)に従(したが)わん者(もの)か。子(し)曰(のたま)わく、父(ちち)と君(きみ)とを弑(しい)すれば、亦(また)従(したが)わざるなり。
「論語」参考文献|論語、素読会
先進第十一22< | >先進第十一24