論語、素読会

是の故に夫の佞者を悪む|「論語」先進第十一24

子路が子羔を費の官吏にさせた。孔先生がおっしゃった、あの男の子をだめにするのではと。子路が言うには、(費には)人民があり、国家があります。どうして必ず書を読んで、その後で学ぶ(必要がある)のでしょう。孔先生がおっしゃった、だから(私は)口が達者な者をにくむのだ、と。|「論語」先進第十一24

【現代に活かす論語】
言い訳は人に伝わります。孔子は口が達者な人を嫌いました。

『論語、素読会』YouTube動画
00:00 章句の検討

13:30先進第十一」後半19 – 25 素読
2023.03.27収録

【解釈】

費(ひ) … 魯の大夫、季氏の領地の名。

子路(しろ) … 姓は仲(ちゅう)、名は由(ゆう)、字は子路(しろ)・季路(きろ)。孔子より九歳若く孔子門人の中で最年長。孔子のボディガード役を果たした。「論語」の登場人物|論語、素読会

子羔(しこう) … 髙柴(こうさい)、姓は髙(こう)、名は柴(さい)、字は子羔(しこう)・子髙(しこう)・子皐(しこう)・季皐(きこう)。孔子より三十歳(また四十歳)若い。「論語」の登場人物|論語、素読会

子路子羔をして費の宰たらしむ。子曰わく、夫の人の子を賊わん。子路曰わく、民人有り、社稷有り。何ぞ必ずしも書を読みて、然る後に学と為さん。子曰わく、是の故に夫の佞者を悪む。|「論語」先進第十一24
子路使子羔為費宰。子曰、賊夫人之子。子路曰、有民人焉、有社稷焉。何必読書、然後為学。子曰、是故悪夫佞者。

「宰」(さい)は地方の官吏、県令。「夫」(かの)はあの。「人」(ひと)は男性、おとこ。「子」(こ)はこども。「賊」(そこなう)はしいたげる、害する、だめにする。「民人」(みんじん)は一般人、庶民、人民。「焉」は置き字として訓読しない。「社稷」(しゃしょく)は国家、国家政権。「然後」(しかるのちに)はその後で、そうしてやっと、そこではじめて。「佞者」(ねいじゃ)は口が達者で人にへつらう者。口先がうまくて心のねじけた人。「悪」(にくむ)はにくむ、いやがる。

子路が子羔を費の官吏にさせた。孔先生がおっしゃった、あの男の子をだめにするのではと。子路が言うには、(費には)人民があり、国家があります。どうして必ず書を読んで、その後で学ぶ(必要がある)のでしょう。孔先生がおっしゃった、だから(私は)口が達者な者をにくむのだ、と。

【解説】

若い子羔を子路が町の官吏に抜擢したのでしょう。文献によれば子路が季氏に仕えていたときのことのようです。孔子は子羔がまだ若いと判断して、彼には荷が重すぎる、彼を潰してしまわないかと心配したようです。子路は孔子のことばにハッとして、思わず言い訳をしてしまったというのがこの章句です。
全く異なる機会だと思いますが、同じ弟子でも、閔子騫は費の官吏に就く誘いを断っています。「季氏閔子騫をして費の宰たらしめんとす。閔子騫曰わく、善く我が為に辞せよ。|「論語」雍也第六07」これは費が当時悪政を行っていた季氏の領地で、季氏はこの土地の人民を苦しめるようなこともあったようです。季氏に子路が仕えることで、季氏の行いを改めさせる意図が孔子にもあったようですが、「今由と求とは、具臣と謂うべし。|「論語」先進第十一23」こちらにもあるように、由(子路)と求(冉有)は季氏の政事を変革するにいたっていなかったようです。そんな中での若い子羔の登用ですので、そもそもの大役に加えて悪政に加担することになりはしないかと、それによって若い子羔に及ぼす影響を心配しても不思議ではありません。
そのような状況下での子路の返答は孔子にはその場しのぎの言い訳に聞こえたのでしょう。長年の付き合いである子路なので、ピンと来たのでしょう。子路の判断を評価するのではなく、熟考を重ねた上での判断であったのか、子路に自省を促すようなやり取りに感じます。この後、子路はどうしたのでしょう。その顛末が気になります。


「論語」参考文献|論語、素読会
先進第十一23< | >先進第十一25


【原文・白文】
 子路使子羔為費宰。子曰、賊夫人之子。子路曰、有民人焉、有社稷焉。何必読書、然後為学。子曰、是故悪夫佞者。
<子路使子羔爲費宰。子曰、賊夫人之子。子路曰、有民人焉、有社稷焉。何必讀書、然後爲學。子曰、是故惡夫佞者。>

(子路子羔をして費の宰たらしむ。子曰わく、夫の人の子を賊わん。子路曰わく、民人有り、社稷有り。何ぞ必ずしも書を読みて、然る後に学と為さん。子曰わく、是の故に夫の佞者を悪む。)
【読み下し文】
 子路(しろ)子羔(しこう)をして費(ひ)の宰(さい)たらしむ。子(し)曰(のたま)わく、夫(か)の人(ひと)の子(こ)を賊(そこな)わん。子路(しろ)曰(い)わく、民人(みんじん)有(あ)り、社稷(しゃしょく)有(あ)り。何(なん)ぞ必(かなら)ずしも書(しょ)を読(よ)みて、然(しか)る後(のち)に学(がく)と為(な)さん。子(し)曰(のたま)わく、是(こ)の故(ゆえ)に夫(か)の佞者(ねいじゃ)を悪(にく)む。


「論語」参考文献|論語、素読会
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