論語、素読会

徳を以て徳に報いん|「論語」憲問第十四36

ある人が言った、恩恵をもって受けた怨みに報いるといいますが、どう思われますか?と。孔先生がおっしゃった、もし、それであれば、何をもって恩恵(徳)に報いればいいのか。正しく公平をもって受けた怨みに返し、恩恵をもって恩恵に報いるといいだろう。|「論語」憲問第十四36

【現代に活かす論語】
理不尽なことへの怨みに、情け、恩恵をもって返すのはどうでしょう。怨みには情けをもって返すのではなく、正しく公正さをもって報いるべきです。でなければひとから受けた恩恵に返すものが無くなってしまいます。

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00:00 章句の検討

11:05「憲問第十四」後半22 – 46 素読
2024.1.22収録

【解釈】

或ひと曰わく、徳を以て怨に報いば、何如。子曰わく、何を以てか徳に報いん。直きを以て怨に報い、徳を以て徳に報いん。|「論語」憲問第十四36
或曰、以徳報怨、何如。子曰、何以報徳。以直報怨、以徳報徳。

「徳」(とく)は恩義、恩恵。『徳』とは?|論語、素読会  「怨」(うらみ)は憤って不満なこと、深い悲しみ。「報」(むくいる)はお返しをする。「以徳報怨」はうらみを受けた相手に、逆に恩恵をほどこす。「直」(なおし)は公正なさま、正しい、道理があるさま。

ある人が言った、恩恵をもって受けた怨みに報いるといいますが、どう思われますか?と。孔先生がおっしゃった、もし、それであれば、何をもって恩恵(徳)に報いればいいのか。正しく公平をもって受けた怨みに返し、恩恵をもって恩恵に報いるといいだろう。

【解説】

ひとから受けた理不尽な怨みに「徳」をもって返す。一見、正しいように思いますが、孔子は「徳」には「徳」をもって返すべきだとすれば、怨みに返すのは「徳」ではないと言います。
孔子の学びで興味深いのは怨みを持つことを前提にしていること。ひとは理不尽なことを受けることがありそれに対して怨みを持つまたは怨みの感情が生まれるということを認めています。そして怨みには、正しく公正な態度、姿勢で対応せよと言っているのです。怨みに対して恩恵、温情などの徳行で返せとしないところが、孔子の学びの特長です。
孔子および孔子の門下で大切にしている「仁」思いやりの心。孔子は常に「仁」の中に里る(いる)ことを望みますが、すべてに「仁」に代表される徳行をもって対応すべしとしないところが大変に興味深いところです。自分の心は常に「仁」であっても、怨みには正しく公正なこと(直き)をもって返すというのがこの章句における孔子からのメッセージです。


「論語」参考文献|論語、素読会
憲問第十四35< | >憲問第十四37


【原文・白文】
 或曰、以徳報怨、何如。子曰、何以報徳。以直報怨、以徳報徳。
<或曰、以德報怨、何如。子曰、何以報德。以直報怨、以德報德。>

(或ひと曰わく、徳を以て怨に報いば、何如。子曰わく、何を以てか徳に報いん。直きを以て怨に報い、徳を以て徳に報いん。)
【読み下し文】
 或(ある)ひと曰(い)わく、徳(とく)を以(もっ)て怨(うらみ)に報(むく)いば、何如(いかん)。子(し)曰(のたま)わく、何(なに)を以(もっ)てか徳(とく)に報(むく)いん。直(なこ)きを以(もっ)て怨(うらみ)に報(むく)い、徳(とく)を以(もっ)て徳(とく)に報(むく)いん。


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憲問第十四35< | >憲問第十四37


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