論語、素読会

予は一以て之を貫く|「論語」衛霊公第十五03

孔先生がおっしゃった、賜くん、お前は私が多くを学んで知識を持っている者と思っているか?と。(子貢は)答えてこう言った、そう思います、間違っていますか?と。孔先生がおっしゃった、間違っているね。私はひとつのことを貫いているのだよと。|「論語」衛霊公第十五03

【現代に活かす論語】
思いやりを以て行動し物事に対する判断を貫くことは、多くのことを学び知識を蓄えることに勝る。

【解釈】

賜(し) … 子貢(しこう)。姓は端木(たんぼく)、名は賜(し)、字は子貢(しこう)。孔子より三十一歳若い。「論語」の中で孔子との問答がもっとも多い。言葉巧みな雄弁家で自信家だったが、孔子には聡明さを褒められ、言葉の多さを指摘されている。

子曰わく、賜や、女は予を以て多く学びて之を識る者と為すか。対えて曰わく、然り、非なるか。曰わく、非なり。予は一以て之を貫く。|「論語」衛霊公第十五03
子曰、賜也、女以予為多学而識之者与。対曰、然、非与。曰、非也。予一以貫之。

「予」(われ)は私、われ。「識」(しる)はわかる。「為」(なす)は見なす。

孔先生がおっしゃった、賜くん、お前は私が多くを学んで知識を持っている者と思っているか?と。(子貢は)答えてこう言った、そう思います、間違っていますか?と。孔先生がおっしゃった、間違っているね。私はひとつのことを貫いているのだよと。

【解説】

孔子が貫いているひとつのこととは「仁」です。孔子はなぜ子貢にこのように伝えたのでしょう。子貢は孔子の門下生の中でも優秀で孔子との問答も多く収録されている大変身近な人物です。我々は「論語」を通じて孔子と子貢のうらやむほどの良好な師弟関係を知ることができます。誰もが孔子の豊富な知識と経験値の高さ、思慮深さを理解しています。文頭の多くを学び何でも知っている孔子の姿を、子貢同様、その通りだと思っているでしょう。これを子貢を相手に否定してみせるのが孔子の工夫です。知識も大事だがそれよりも大切なものがあるだろう?と問いかけます。ハッとさせるのです。
尋ね方を変えて、例えば、孔子がひとつ貫いていることがあるがそれはなんだと思うか?と問えば、「仁」ですと答えられるでしょう。しかしそれでは足りないのです。知識や学びは「仁」を以て行動することによって発生し、満たされていくと伝えたいのではないでしょうか。また「仁」の無い「知」は存在しないとも、「知」より「仁」が勝ると理解することも可能です。いずれにしても、子貢に対して親しげに尋ねるこの章句の構成こそ、「論語」が持つ印象的な伝え方の工夫であると、感心するのです。


「論語」参考文献|論語、素読会
衛霊公第十五02< | >衛霊公第十五04


【原文・白文】
 子曰、賜也、女以予為多学而識之者与。対曰、然、非与。曰、非也。予一以貫之。
<子曰、賜也、女以予爲多學而識之者與。對曰、然、非與。曰、非也。予一以貫之。>

(子曰わく、賜や、女は予を以て多く学びて之を識る者と為すか。対えて曰わく、然り、非なるか。曰わく、非なり。予は一以て之を貫く。)
【読み下し文】
 子(し)曰(のたま)わく、賜(し)や、女(なんじ)は予(われ)を以(もっ)て多(おお)く学(まな)びて之(これ)を識(し)る者(もの)と為(な)すか。対(こた)えて曰(い)わく、然(しか)り、非(ひ)なるか。曰(のたま)わく、非(ひ)なり。予(われ)は一(いつ)以(もっ)て之(これ)を貫(つらぬ)く。


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