論語、素読会

如かざるなり。吾と女と如ざるなり|「論語」公冶長第五09

孔先生が子貢に尋ねておっしゃった。「お前と回とどちらがまさると思うか?」子貢はお答えした。「私がどうして回と比べることができるでしょうか。回は一を聞いて十を知り、私は一を聞いて二を知る程度です。」孔先生がおっしゃった。「(その通り)及ばないね。私もお前も(回には)及ばないね。」|「論語」公冶長第五09

【現代に活かす論語】
同僚の能力を認められる人間性でありたい。そして部下の能力を認められる人間性でありたい。

『論語、素読会』YouTube動画
00:00 章句の検討
10:50 「公冶長第五」前半01-15 素読
2021.7.6収録

【解釈】

子貢(しこう) … 姓は端木(たんぼく)、名は賜(し)、字は子貢(しこう)。孔子より31歳若い。「論語」の中で孔子との問答がもっとも多い。言葉巧みな雄弁家で自信家だったが、孔子には聡明さを褒められ、言葉の多さを指摘されている。
経済面で能力が高かったと言われている。「論語」の登場人物|論語、素読会

回(かい) … 顔淵(がんえん)。姓は顔(がん)、名は回(かい)、字は子淵(しえん)。孔子より三十歳若い。孔子よりも早く、三十歳(一説では四十歳とも)で死んだ。秀才で、門人の中で一番の学問好き。孔子の第一の弟子ともいわれる。「論語」の登場人物|論語、素読会

子、子貢に謂いて曰わく、女と回と孰れか兪れる。対えて曰わく、賜や何ぞ敢えて回を望まん。回や一を聞いて以て十を知る。賜や一を聞いて以て二を知る。子曰わく、如かざるなり。吾と女と如ざるなり。|「論語」公冶長第五09
子謂子貢曰、女与回也孰兪。対曰、賜也何敢望回。回也聞一以知十。賜也聞一以知二。子曰、弗如也。吾与女弗如也。

「謂」(いう)は尋ねる。「孰兪」(いずれかまされる)はどちらが勝る?という疑問形。「対」(こたえて)は答える。「望」(のぞむ)は遠くからのぞみ見るの意。「弗」は不と同じ不より強い。「如」は及ぶの意。

孔先生が子貢に尋ねておっしゃった。「お前と回とどちらがまさると思うか?」子貢はお答えした。「私がどうして回と比べることができるでしょうか。回は一を聞いて十を知り、私は一を聞いて二を知る程度です。」孔先生がおっしゃった。「(その通り)及ばないね。私もお前も(回には)及ばないね。」

【解説】

どのようなやり取りの中でこの会話が交わされたのか興味が湧きます。
子貢が孔子よりも31歳年下、顔淵は30歳年下ですのでほぼ同い年のライバルともいえる間柄だったかもしれません。優秀で弁才がある子貢にもプライドはあるでしょう、しかしそれでも孔子が回について子貢に聞いているところに孔子と子貢の師弟関係がうかがえます。そうして子貢が素直に顔淵を認めているところも見事です。孔子が子貢の精神的な成長を認めるところ、息子のような歳の子貢の回答に目を細めたことでしょう。
さらにこの章句の興味深いところは、孔子が「及ばないね。私もお前も及ばない。」といっている場面です。孔子は子貢のプライドを傷つけかねない質問を投げかけつつ、最終的に孔子自身も顔淵に適わない部分があると言うのです。
このことから恐らく顔淵の様子をふたりで話していたのでしょう。孔子のことですから顔淵の様子を通して自らの学びについて思いを巡らせていたのかも知れません。そうした話の流れでおもむろに出た質問。子貢も悪い気がしない流れだったのではないでしょうか。そうした子貢の他人を認めることができる精神的な余裕を生み出す孔子との師弟関係がうかがえます。孔子と子貢の間には厳しさもある半面、絶大な信頼と精神的に豊かな関係がうかがえるのです。


「論語」参考文献|論語、素読会
公冶長第五08< | >公冶長第五10


【原文・白文】
 子謂子貢曰、女与回也孰兪。対曰、賜也何敢望回。回也聞一以知十。賜也聞一以知二。子曰、弗如也。吾与女弗如也。
<子謂子貢曰、女與回也孰愈。對曰、賜也何敢望回。回也聞一以知十。賜也聞一以知二。子曰、弗如也。吾與女弗如也。>

(子、子貢に謂いて曰わく、女と回と孰れか兪れる。対えて曰わく、賜や何ぞ敢えて回を望まん。回や一を聞いて以て十を知る。賜や一を聞いて以て二を知る。子曰わく、如かざるなり。吾と女と如ざるなり。)
【読み下し文】
 子(し)、子貢(しこう)に謂(い)いて曰(のたま)わく、女(なんじ)と回(かい)と孰(いず)れか兪(まさ)れる。対(こた)えて曰(い)わく、賜(し)や何(なん)ぞ敢(あえ)えて回(かい)を望(のぞ)まん。回(かい)や一(いち)を聞(き)いて以(もっ)て十(じゅう)を知(し)る。賜(し)や一(いち)を聞(き)いて以(もっ)て二(に)を知(し)る。子(し)曰(のたま)わく、如(し)かざるなり。吾(われ)と女(なんじ)と如(しか)ざるなり。


「論語」参考文献|論語、素読会
公冶長第五08< | >公冶長第五10