論語、素読会

曰わく、彼をや彼をや|「論語」憲問第十四10

ある人が鄭の大夫・子産について尋ねた。孔先生がおっしゃった、思いやりがある「恵人」だねと。(つづけて)子西について尋ねた。孔先生がおっしゃった、あの人か、あの人ねぇと。斉の大夫・管仲について尋ねた。孔先生がおっしゃった、彼は(大した)人物だ。斉の大夫・伯氏の騈の村三百戸を取り上げたが、(伯氏は)粗末な食事を食べながらも、一生涯恨み言を言わなかった、と。|「論語」憲問第十四10

【現代に活かす論語】
罪を犯したとはいえ、裁きによって貧乏になっても恨み言を言わない。そんな公明正大な処分を行えるのは、大したものです。

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00:00 章句の検討

10:25「憲問第十四」前半01 – 21 素読
2023.11.29収録

【解釈】

「子産」(しさん) … 鄭(てい)の国の大夫。姓は公孫(こうそん)、名は僑(きょう)、子産は字。優れた政治家。教養人とたたえられる。晋(しん)・楚(そ)の両国に挟まれた鄭の国力の充実に尽力した。「論語」の登場人物|論語、素読会

子西(しせい) … 鄭(てい)の大夫。鄭の穆公(ぼくこう)の孫。子産の従兄弟。「論語」の登場人物|論語、素読会

管仲(かんちゅう) … 斉(せい)の大夫・大夫(臣下)として桓公(かんこう)を助けた。「管子」七十八編を記した。孔子より百七十年、百八十年以前の人。「論語」の登場人物|論語、素読会

伯氏(はくし) … 斉(せい)の大夫。「論語」の登場人物|論語、素読会

或ひと子産を問う。子曰わく、恵人なり。子西を問う。曰わく、彼をや彼をや。管仲を問う。曰わく、この人や、伯氏の騈邑三百を奪い。疏食を飯いて、歯を没するまで怨言無し。|「論語」憲問第十四10
或問子産。子曰、恵人也。問子西。曰、彼哉彼哉。問管仲。曰、人也、奪伯氏騈邑三百。飯疏食、没歯無怨言。

「恵」(けい)はいつくしみ、おもいやりのあるさま。「彼哉」(かれをや)は[重んじない人物を指して]あいつ、あの男。「邑」(ゆう)は人々が居住する地域、むら。「騈邑」(べんゆう)は騈の村。「疏食」(そし)は粗末な食事、粗食。「没歯」(よわいをぼっする)は一生涯、終身。「怨言」(えんげん)は恨み言。

ある人が鄭の大夫・子産について尋ねた。孔先生がおっしゃった、思いやりがある「恵人」だねと。(つづけて)子西について尋ねた。孔先生がおっしゃった、あの人か、あの人ねぇと。斉の大夫・管仲について尋ねた。孔先生がおっしゃった、彼は(大した)人物だ。斉の大夫・伯氏の騈の村三百戸を取り上げたが、(伯氏は)粗末な食事を食べながらも、一生涯恨み言を言わなかった、と。

【解説】

この章句はひとつ前の章句に登場する優れた政治家・子産について、孔子が評価するところから始まります。子産は「恭・敬・恵・義」が備わっている「其の己を行うや恭、其の上に事うるや敬、其の民を養うや恵、其の民を使うや義。|「論語」公冶長第五16」と孔子は考えており、この章句でも子産を「恵人」と評しています。
対して管仲は器が小さく、礼を知らない「子曰わく、管仲の器は小なるかな。<中略>管氏にして礼を知らば、孰か礼を知らざらん。|「論語」八佾第三22」と孔子は考えていました。一方で、桓公を助けて天下を救い、孔子たちもその恩恵を受けていると孔子は言います。
この章句ではその管仲について、伯氏の例を取り上げてその人物像について答えています。文献では、同じ斉の大夫であった伯氏の土地を取り上げたことは、伯氏の犯した罪に対する処罰だと解釈されています。その処罰が公明正大であったことから、伯氏は処罰によって貧しくなっても恨まなかったということです。次の章句で「貧しいのに恨まないのは難しい」とありますので、この伯氏の反応から管仲の政治的な力量については評価できると考えていたのではないでしょうか。
多くの文献にあるように、子産と管仲を比較した章句だとすれば、君子の要素の中の四つが備わっている子産と政治的な手腕を認めることができる管仲(でも器は小さく礼に欠ける)という評価が浮かび上がります。
そして、次の章句も一緒に味わうことで、一層孔子の学びのおもしろさを感じていただけると思います。ちなみに子西についての問いは文章としての構成上、必要であっただけだと思います。ここは編者の工夫と考えてもいいのではないでしょうか


「論語」参考文献|論語、素読会
憲問第十四09< | >憲問第十四11


【原文・白文】
 或問子産。子曰、恵人也。問子西。曰、彼哉彼哉。問管仲。曰、人也、奪伯氏騈邑三百。飯疏食、没歯無怨言。
<或問子產。子曰、惠人也。問子西。曰、彼哉彼哉。問管仲。曰、人也、奪伯氏騈邑三百。飯疏食、没齒無怨言。>

(或ひと子産を問う。子曰わく、恵人なり。子西を問う。曰わく、彼をや彼をや。管仲を問う。曰わく、この人や、伯氏の騈邑三百を奪い。疏食を飯いて、歯を没するまで怨言無し。)
【読み下し文】
 或(ある)ひと子産(しさん)を問(と)う。子(し)曰(のたま)わく、恵人(けいじん)なり。子西(しさい)を問(と)う。曰(のたま)わく、彼(かれ)をや彼(かれ)をや。管仲(かんちゅう)を問(と)う。曰(のたま)わく、この人(ひと)や、伯氏(はくし)の騈邑(べんゆう)三百(さんびゃく)を奪(うば)い。疏食(そし)を飯(くら)いて、歯(よわい)を没(ぼっ)するまで怨言(えんげん)無(な)し。


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憲問第十四09< | >憲問第十四11


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