論語、素読会

其の仁に如かんや|「論語」憲問第十四17

子路が言うには、桓公は斉の公子・公子糾を殺した。公子糾の守り役・召忽は共に死に、斉の大夫・管仲は死ななかった。(子路が)言うには、まだ思いやりの心がありませんねと。孔先生がおっしゃった、桓公が諸侯を集め合わせるのに武力を使わなかったのは、管仲の力である。その思いやりの心に及ぶことがあるだろうか、その思いやりに及ぶ者があろうか。|「論語」憲問第十四17

【現代に活かす論語】
国と国が連合したり併合するために武力を用いない。その徳政に及ぶ者があるだろうか。

『論語、素読会』YouTube動画
00:00 章句の検討

13:50「憲問第十四」前半01 – 21 素読
2023.12.14収録

【解釈】

子路(しろ) … 姓は仲(ちゅう)、名は由(ゆう)、字は子路(しろ)・季路(きろ)。孔子より九歳若い。孔子のボディガード役を果たした。「論語」の登場人物|論語、素読会

桓公(かんこう) … 斉(せい)の公。春秋の五覇の一人で、晋(しん)の文公(ぶんこう)とともにもっとも勢力があった。「論語」の登場人物|論語、素読会

五覇(ごは) … 斉(せい)の桓公、晋(しん)の文公、秦(しん)の穆公(ぼくこう)、宋(そう)の襄公(じょうこう)、楚(そ)の荘王(そうおう)

公子糾(こうしきゅう) … 斉(せい)の公子(大夫)の糾(きゅう)。斉の僖公(きこう)の庶子(しょし)で、襄公(じょうこう)の異母弟、桓公の異母弟。「論語」の登場人物|論語、素読会

召忽(しょうこつ) … 斉(せい)の公子・糾(きゅう)の傅(ふ・守り役)。「論語」の登場人物|論語、素読会

管仲(かんちゅう) … 斉(せい)の大夫(臣下)として桓公(かんこう)を助けた。「管子」七十八編を記した。孔子より百七十年、百八十年以前の人。「論語」の登場人物|論語、素読会

子路曰わく、桓公公子糾を殺す。召忽之に死し、管仲は死せず。曰わく、未だ仁ならざるか。子曰わく、桓公諸侯を九合するに、兵車を以てせざるは、管仲の力なり。其の仁に如かんや、其の仁に如かんや。|「論語」憲問第十四17
子路曰、桓公殺公子糾。召忽死之、管仲不死。曰、未仁乎。子曰、桓公九合諸侯、不以兵車、管仲之力也。如其仁、如其仁。

「仁」(じん)は思いやりの心、情愛の心。『仁』とは?|論語、素読会 「諸侯」(しょこう)は封建時代、天子から領地の所有を認められた国の君主。「九合」(きゅうごう)は集め合わせる、糾合。「兵車」(へいしゃ)は戦車。「如」(しく)は及ぶ、匹敵する。「其」(その)は[反語を表す]

子路が言うには、桓公は斉の公子・公子糾を殺した。公子糾の守り役・召忽は共に死に、斉の大夫・管仲は死ななかった。(子路が)言うには、まだ思いやりの心がありませんねと。孔先生がおっしゃった、桓公が諸侯を集め合わせるのに武力を使わなかったのは、管仲の力である。その思いやりの心に及ぶことがあるだろうか、その思いやりに及ぶ者があろうか。

【解説】

君主が殺されたとき、仕えていた者が一緒に死ぬかどうかの是非について、子路が孔子に尋ねてたことから始まる章句です。この章句を解釈するに際して、いくつかの留意すべきポイントがあります。
まず第一に、管仲が死ななかったことが「仁」ではないかどうかという点です。斉の内乱の時に公子糾を召忽とともに助けて魯に逃げた管仲ですが、小白(のちに桓公となる)に公子糾が殺された時には召忽は公子糾と共に死んだのに対して、管仲は死なずに桓公に仕えました。子路はこれを「未仁乎」と言って「仁」がないと孔子に確認します。私は一貫して「仁」は思いやりの心と解釈していますので、この子路の考えには違和感を持ちます。孔子が伝えている「仁」とは仕える上司と運命を共にするという意味ではないですし、そもそもこの逸話によって「仁」を判断するというのは見当違いです。
孔子が素晴らしいのは、この子路の論点の間違いを指摘するのではなく、のちに管仲が桓公を支えて行った功績を例に、「仁」とはこういうことだと思うよ。と伝えている点です。それも二度繰り返すことで、子路に対して気づきを与えるような表現になっています。
第二のポイントは、「如其仁」の解釈です。文献を参照すると「其の仁に如かんや」と読み下しており、武力(兵車)を用いなかった管仲の行いを「仁」としてなかなかできるものではないと評価しています。この場合の「仁」とは武力を用いないことによる人民への「仁」であり、君主に対する思いやりと人民への思いやりの対比という点でも大きく異なるものです。前述の通りそもそも子路が言う「仁」は間違いではないかとう点を差し引いても、孔子が言う管仲の行いの深い意味については、政治の世界で活躍しようとする弟子たちに大きな気づきを与えたのではないかと思います。
管仲の功績については、本章句の次の章句(憲問第十四18)でも弟子の子貢に語っていますので本章句と併せて楽しんでください。


「論語」参考文献|論語、素読会
憲問第十四16< | >憲問第十四18


【原文・白文】
 子路曰、桓公殺公子糾。召忽死之、管仲不死。曰、未仁乎。子曰、桓公九合諸侯、不以兵車、管仲之力也。如其仁、如其仁。

(子路曰わく、桓公公子糾を殺す。召忽之に死し、管仲は死せず。曰わく、未だ仁ならざるか。子曰わく、桓公諸侯を九合するに、兵車を以てせざるは、管仲の力なり。其の仁に如かんや、其の仁に如かんや。)
【読み下し文】
 子路(しろ)曰(い)わく、桓公(かんこう)公子糾(こうしきゅう)を殺(ころ)す。召忽(しょうこつ)之(これ)に死(し)し、管仲(かんちゅう)は死(し)せず。曰(い)わく、未(いま)だ仁(じん)ならざるか。子(し)曰(のたま)わく、桓公(かんこう)諸侯(しょこう)を九合(きゅうごう)するに、兵車(へいしゃ)を以(もっ)てせざるは、管仲(かんちゅう)の力(ちから)なり。其(そ)の仁(じん)に如(し)かんや、其(そ)の仁(じん)に如(し)かんや。


「論語」参考文献|論語、素読会
憲問第十四16< | >憲問第十四18


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