論語、素読会

直きを挙げて諸を枉れるに錯けば、則ち民服す|「論語」為政第二19

魯の君主、哀公が尋ねた。どうすれば人民が従ってくれるのだろう。孔先生がこれに応えておっしゃった、正しい人を登用して、不正を行う人の上に配置すれば、人民は従うでしょう。不正を行う人を登用して、正しい人の上に配置すれば、人民は従いません。|「論語」為政第二19

【現代に活かす論語】
組織においては、誠実な人を登用して不誠実な人の上に配置すれば組織の人員はリーダーに従うだろう。不誠実な人の下にいくら優秀な人を配置してもスタッフは従わない。

『論語、素読会』YouTube動画
00:00​ 章句の検討

18:00​ 「為政第二」01-24 素読
2021.3.25収録

【解釈】

哀公(あいこう) … 魯の君主。名は蒋(しょう)。十歳で即位した。孔子を重用した定公の後に即位して二十七年在位した。「論語」の登場人物|論語、素読会

哀公問うて曰わく、何を為さば則ち民服せん。孔子対えて曰わく、直きを挙げて諸を枉れるに錯けば、則ち民服す。枉れるを挙げて諸を直きに錯けば、則ち民服せず。|「論語」為政第二19
哀公問曰、何為則民服。孔子対曰、挙直錯諸枉、則民服。挙枉錯諸直、則民不服。

「服」は従うこと。「直」は素直な人、正しい人。「挙」は登用する。「枉」(まがれる)は曲がった人、不正を行う人。「錯」(おく)は置く、配置する。

魯の君主、哀公が尋ねた。どうすれば人民が従ってくれるのだろう。孔先生がこれに応えておっしゃった、正しい人を登用して、不正を行う人の上に配置すれば、人民は従うでしょう。不正を行う人を登用して、正しい人の上に配置すれば、人民は従いません。

【解説】

魯の君主、哀公は孔子が魯の役人を辞した後に10歳で即位しましたので、孔子が諸国周遊の旅から魯に戻ってきて以降の章句のようです。魯の大夫の君主をないがしろにした不正は、結局、孔子が魯の国の役人を辞して国を離れるきっかけにもなりました。14年後に魯の国に戻ってきたとき、徐々に大夫の力が弱まったといえ不正は続いていたと伝わります。そんな状況下で、人民の人心が離れてしまったことに悩んで、哀公が孔子に尋ねたのがこの章句です。20歳代になった若い魯の君主に対して、皮肉にも聞こえる正論を返しています。哀公に人事権があったのかは分かりませんが、ずばり、彼らの上に正しい人を配置することが解決策だと伝えていることを、一種の風刺であると解説する文献もあります。

現代に置き換えてこの章句を親しむとき、社員の人心を掌握する組織論に結びつけることができると思います。ひとつは思い切った人材の登用。そしてその配置です。組織を改革するとき、改革が必要な組織の上司の下に人材を登用しても、組織を構成する人員は動かないということです。二つ目は不正をする人を辞めさせている訳ではないという点です。この解釈は難しいですが、当時の状況から大夫を辞めさせられないという事情があったにしても、その上に正しい人を配置せよと言っていることから、特別な役職を問題がある役職の上に新たに設けて、そこに正しい人を配置せよとアドバイスしていると理解することができます。これは組織開発を行い判断するトップの本気度を社員が感じ取って、トップの意思に従うかどうか、トップの思いに応えてそれが行動に繋がるかどうかに繋がる。そのように孔子が伝えていると考えられると思います。

直きを挙げて諸を枉れるに錯けば、則ち民服す。」同様の表現の章句があります。「直きを挙げて諸を枉れるに錯けば、能く枉れる者をして直からしむ|「論語」顔淵第十二22」こちらの章句では、弟子の燓遅が「知」について孔子に尋ね、うまく理解できなかったので後日子夏にあらためて意味を問うという章句です。君主自ら模範を示すことで民の不正が治まる、つまり徳政こそが必要であると孔子は考えていたのです。


「論語」参考文献|論語、素読会
為政第二18< | >為政第二20


【原文・白文】
 哀公問曰、何為則民服。孔子対曰、挙直錯諸枉、則民服。挙枉錯諸直、則民不服。
<哀公問曰、何爲則民服。孔子對曰、舉直錯諸枉、則民服。舉枉錯諸直、則民不服。>

(哀公問うて曰わく、何を為さば則ち民服せん。孔子対えて曰わく、直きを挙げて諸を枉れるに錯けば、則ち民服す。枉れるを挙げて諸を直きに錯けば、則ち民服せず。)
【読み下し文】
 哀公(あいこう)問(と)うて曰(い)わく、何(なに)を為(な)さば則(すなわ)ち民(たみ)服(ふく)せん。孔子(こうし)対(こた)えて曰(のたま)わく、直(なお)きを挙(あ)げて諸(これ)を枉(まが)れるに錯(お)けば、則(すなわ)ち民(たみ)服(ふく)す。枉(まが)れるを挙(あ)げて諸(これ)を直(なお)きに錯(お)けば、則(すなわ)ち民(たみ)服(ふく)せず。


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