孔先生がおっしゃった、参や、私の説く教えは一貫した原理があるのだよ。曾子は「はい」と直ちにはっきりと返事をした。孔先生は(曾子のその様子を見ると)部屋を出た。他の門人たちがどういう意味ですか?と曾子に尋ねた。曾子はこう答えた、孔先生が説かれる道は、「忠」と「恕」つまり誠実さと思いやりだけです。|「論語」里仁第四15
【現代に活かす論語】
ひととして主義を一本貫くとすれば、それは誠実さと思いやりだ。
『論語、素読会』YouTube動画
00:00 章句の検討
14:00 「里仁第四」01-26 素読
2021.6.7収録
【解釈】
参(しん) … 曾子(そうし)の名。姓は曾、名は参、字は子輿。孔子より46歳若い。孔子の教えを伝えた第一人者と言われています。
子曰わく、参や、吾が道一以て之を貫く。曾子曰わく、唯。子出ず。門人問うて曰わく、何の謂いぞや。曾子曰わく、夫子の道は、忠恕のみ。|「論語」里仁第四15
子曰、参乎、吾道一以貫之。曾子曰、唯。子出。門人問曰、何謂也。曾子曰、夫子之道、忠恕而已矣。
「道」(みち)は教え、道理、道の原理。「一以貫之」(いつもってこれをつらぬく)は、一貫しているの意。「唯」(い)は「はい」という返事。「門人」(もんじん)は弟子。「何謂也」(なんのいいぞや)は、どういう意味ですか?の意。「夫子」(ふうし)は先生。孔子を指す。「忠恕」(ちゅうじょ)の「忠」は誠実、『忠』とは?|論語、素読会 「恕」は思いやり。『恕』とは?|論語、素読会 ここでは「仁」を構成するものとして考えてもいいのではないか。『仁』とは?|論語、素読会
孔先生がおっしゃった、参や、私の説く教えは一貫した原理があるのだよ。曾子は「はい」と直ちにはっきりと返事をした。孔先生は(曾子のその様子を見ると)部屋を出た。他の門人たちがどういう意味ですか?と曾子に尋ねた。曾子はこう答えた、孔先生が説かれる道は、「忠」と「恕」つまり誠実さと思いやりだけです。
【解説】
古代中国では、名を呼ぶのは家族などのごく親しい人に限られていたそうです。孔子が曾子を名の「参」で呼び、伝えた言葉を、曾子はよくよく理解して、孔子はそれに満足するように部屋を後にします。
この言葉の前にはどんな話をしていたのでしょう。曾子がなにか相談をしていたのでしょうか。それとも孔子が敢えて曾子を呼び寄せて話をしたのでしょうか。
いきなり唐突に場面が始まりますが、その映像は孔子とその孫のようなふたりのほのぼのとした雰囲気に包まれているように感じます。
一方、同じ部屋でふたりのやり取りを耳をそばだてて聞いていたのでしょうか、他の門人ははっきりと孔子の意思をくみ取れなかったようです。ここで興味深いのは、孔子は隠し立てする様子も無く、弟子たちに曾子とのやり取りを聞かせています。そして門人たちも恐らく耳をそばだててふたりのやり取りを聞いていたのでしょう、そして孔子が曾子に最後に伝えた言葉の意味について率直に曾子に尋ねています。このことから孔子の学び舎の開かれた雰囲気、弟子同士が年齢や経歴に関係なく学び合う様子を手に取るようにして感じることができます。
これは「予が道は一以て之を貫く」とともに、「夫子一貫」の章といって古来有名である。「一」についても異説あるが、その多くは「仁」をもってあて、曾子は仁の代わりに「忠恕」を以て答えたというのである。しかし、一が仁で代名されるなら、孔子はわざわざ一という必要はなく、「仁以て之を貫く」といって差し支えない。「一」という以上、仁では表現できない他の要素を含めていると解釈しなくてはならぬ。
「論語 新釈漢文大系」吉田賢抗 著(明治書院 刊)
孔子が説く教えの一貫した原理が「忠」と「恕」であると曾子は理解しました。「仁」ではなく「忠恕」とするところに孔子の配慮があると、吉田賢抗先生は解釈されました。孔子は「仁」について意味を言及するというより、その働きを通して伝えようとします。若い曾子にはこの「忠恕」を以て仁の道を極めよと、そう伝えたのだと理解します。
「論語」参考文献|論語、素読会
里仁第四14< | >里仁第四16
【原文・白文】
子曰、参乎、吾道一以貫之。曾子曰、唯。子出。門人問曰、何謂也。曾子曰、夫子之道、忠恕而已矣。
<子曰、參乎、吾道一以貫之。曾子曰、唯。子出。門人問曰、何謂也。曾子曰、夫子之道、忠恕而已矣。>
(子曰わく、参や、吾が道一以て之を貫く。曾子曰わく、唯。子出ず。門人問うて曰わく、何の謂いぞや。曾子曰わく、夫子の道は、忠恕のみ。)
【読み下し文】
子(し)曰(のたま)わく、参(しん)や、吾(わ)が道(みち)一(いつ)以(もっ)て之(これ)を貫(つらぬ)く。曾子(そうし)曰(い)わく、唯(い)。子(し)出(い)ず。門人(もんじん)問(と)うて曰(い)わく、何(なん)の謂(い)いぞや。曾子(そうし)曰(い)わく、夫子(ふうし)の道(みち)は、忠恕(ちゅうじょ)のみ。
「論語」参考文献|論語、素読会
里仁第四14< | >里仁第四16