健康

「お薬手帳」に頼るな。意外な盲点。

2020年7月18日更新

母が医者を代えたいというので、その理由を聞いてみると、「お薬手帳」の盲点が分かった。

話の発端は、こんな風だった。
「緑内障の方はご注意ください」
と薬袋に目立つ緑色の字で書かれていたという。

緑内障の母は、私が気がつかなかったら飲んでいたと言って、こんな処方をする医者はごめんだと。
これに対して、知人から言われたことをきっかけに調べた結果、盲点に気づいたのだ。

少々正確ではないかも知れないが、留意点を紹介したい。

「お薬手帳」は患者のもの

お薬手帳って何だろう。

お薬手帳の意義 「お薬手帳」は、医薬品のより安全で有効な薬物療法につなげるためのものです。もちろん手帳は患者さんのものですが、薬局や医療機関でその内容を確認してもらうことに意味があります。紙のお薬手帳は、広く知られており、患者さんも医療関係者も、みんなで簡単に情報を見たり書いたりすることができるのでとても便利です。 日本薬剤師会 https://www.nichiyaku.or.jp/e_kusulink/


日本総合印刷株式会社 http://www.japan-printing.co.jp/8pnakamen.pdf

「手帳は患者さんのもの」ということからも、手帳の管理と利用は患者とその近親者に委ねられていると言っていい。そして、そのお薬手帳の多くが[処方]の履歴を記録する体裁になっている。

薬の飲み合わせによる身体の不調や医療事故を防ぐために導入された。また、自然災害などの震災時に医師の処方なしでも緊急対応を可能にする手段としてその役割が認められ、現在のように広く普及したそうだ。
最近では、飲み薬だけでなく、処方された薬全般を記載するようになり、飲み合わせというだけでなく、処方によってその人の持病や病歴を、薬剤師が判断する材料になっていることが推測できる。
受診して薬を受け取る繰り返しの中で、自分のために処方された薬がすべて記録されている、つまり病気が記録されていると思い込んだことが、母の医者を代えたいという言葉に繋がっている。

私の母が言う、「緑内障に気づかず処方した」問題をあらためて検証すると、処方する病院も調剤薬局の薬剤師も母が提出したお薬手帳を確認した。にも関わらず緑内障の患者に注意を促す薬を処方したのはなぜか?

まず、お薬手帳に緑内障治療のための例えば点眼などの処方が記載されているかどうかを確認してみた。すると、緑内障治療のための点眼薬は処方され、お薬手帳にも薬局によって記録されていたということが分かった。

「お薬手帳」はページがなくなると新しい手帳に更新される

実際のお薬手帳を確認してみて新たな事実を発見した。
眼科のほか3つの病院に定期的に通院している母の場合、処方のたびにお薬手帳に情報が追加され、みるみるページが埋まっていく。お薬手帳の消費が早いのだ。最近はシールを貼るという誤記、記入漏れ防止と記入の手間が簡略化されたおかげで、一回の処方に使うスペースが手書きより広い。
母が記録されていると思っていた緑内障治療のための処方は、新しい手帳には記載(シール貼付)されていなかったのだ。実際のシールはひとつ前の古い手帳に貼付されていた。

病院は「お薬手帳」を確認して処方し、調剤薬局は提出した最新の「お薬手帳」に緑内障の処方歴はないが、母が高齢なこともあり、
「緑内障の方はご注意ください」
と薬袋に目立つ緑色の字でわざわざ書いてくれたのだ。

「お薬手帳」には、病名を記入すべき

参考に掲載した上画像のお薬手帳の場合であれば、[既往歴]のその他の()内に、「緑内障」と記載すべきだった。そして、お薬手帳を更新する度に書き加えるべきだった。しかし、80歳をすぎた高齢者にそれを徹底させるのは正直難しい。また、そのような手帳の使い方を丁寧に説明したり、周知するにはまず記入欄の統一が必要になる。お薬手帳の書き方を探していて、そんなことを感じた。
調べるうち、別の手帳に出会った。「かかりつけ連携手帳」という手帳がすでに提案されていたのだ。提案した日本医師会は「お薬手帳」の問題点にすでに気づいていたとも思える。

地域包括ケアに向けた『かかりつけ連携手帳』を公表 平成27年(2015年)10月5日(月)
 石川広己常任理事は、『かかりつけ連携手帳』を作成したことを公表した。
 『かかりつけ連携手帳』(以下、『連携手帳』)は、かかりつけの医師・薬剤師・歯科医師及び地域包括ケアに欠かせない看護・介護関係者等の医療従事者がそれぞれに持っている、患者さん単位のあらゆる情報をアナログ的に共有できるようにすることを目的としている。
 日医では、日本歯科医師会、日本薬剤師会と共に「健康・医療・介護分野におけるICT化」の連携基盤の構築・環境整備事業の推進に努めているが、ICTによる情報連携の仕組みが普及するまでの間、アナログでも十分な連携が行えるよう、『連携手帳』を作成することにした。
日本医師会 http://www.med.or.jp/nichiionline/article/003891.html

「かかりつけ医」を記入し、病歴リストの元にしよう。日本医師会が気づいたのかもしれない。そして「お薬手帳」ほど更新されない。ちなみにこのデータはダウンロードして印刷し携帯することができる。

日本医師会からの引用文中には「ICTによる情報連携の仕組みが普及するまでの間」とあるので、本来は電子カルテだけでなく医療機関や調剤薬局でデータ連係することが解決策なのである。

試行錯誤する医療データ連係

日本薬剤師会もまた、「お薬手帳」の盲点に気づいていた。の記入漏れを防ぎ過去のデータを閲覧できるように、「e薬リンク(イークスリンク)」という構想の下、患者の同意を得た上で、相互閲覧を可能にしている仕組みを広めようとしている。お薬手帳アプリの使い勝手の評判は、アプリによって様々なので、横断的な仕組みは歓迎したい。しかし、この仕組みの元でもなお「お薬手帳」は病歴リストではないのだ。

e薬Link(R)に対応している電子お薬手帳(一覧)

「お薬手帳」に「かかりつけ連携手帳」を加えて、万が一に備える

「お薬手帳」の盲点に気づき、自分の病歴一覧の必要性に気づいた私は、「お薬手帳」+「かかりつけ連携手帳」を勧めたい。そっと鞄や財布に忍ばせておくだけで、いざとなったときへの準備になる。
そして、田舎の両親や近所の高齢者に、かかりつけ連携手帳を作ってプレゼントしてもいいと思う。