論語、素読会

其れ或いは周を継ぐ者は、百世と雖も知るべきなり|「論語」為政第二23

子張が尋ねた。十世代も以前のことを知ることはできますか、と。孔先生がおっしゃった、殷代の規範は夏代の規範を基にしており、若干の変化があるとしてもそれは認識の範囲内である。周代の規範は殷代の規範を基にしており、若干の変化があるとしてもそれは認識の範囲内である。したがって、周代の次の時代を担うものは、百代先の規範、礼節を知ることができる。|「論語」為政第二23

【現代に活かす論語】
時代が変わっても社会の規範が大きく変わるものではない。礼節(礼儀節度)をわきまえることこそがいつの世も大切なのだ。

『論語、素読会』YouTube動画
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19:15​ 「為政第二」01-24 素読
2021.3.31収録

【解釈】

子張 … 姓は顓孫(せんそん)、名は師、字は子張。孔子より48歳若い。「論語」の登場人物|論語、素読会

「夏」(か)…司馬遷の史記によれば、紀元前21世紀、舜王は部族をまとめる代表(首長)の座を夏族の禹(う)に譲った。禹の子、啓(けい)は首長を選出するという慣例を破り首長の地位を継承し、ここに王位の世襲制が確立した。啓王から数えて16代目、桀王(けつ)は暴虐だったため殷の湯王に滅ぼされた。
伝説の王朝とされてきたが、該当するのではないかという遺跡の発掘などが進んでいるが、未だ確証となる文物がない。

「殷」(いん)…文物などで裏付けられている王朝。紀元前千六百年ころ、湯王が夏の桀王を滅ぼして殷王朝を創建。その時の宰相が伊尹(いいん)。
紀元前千三百年頃、盤庚(ばんこう)が殷に都を定めた。紀元前千五十年頃、殷の紂王は暴虐な政治を行ったとされ、人心は周の文王に集まっていった。紀元前千二十年頃、文王の子の武王が紂王を伐って滅ぼし、王位について周王朝を建てた。殷王朝は31代・約六百五十年続いた。

「周」(しゅう)…文王の子、武王が紂王を伐ち周王朝を建てた。この制度や文化は殷王朝を受け継ぎながらも大変よく整ったものであったとされ、孔子はこれを理想と仰いでいた。

子張問う、十世知るべきや。子曰わく、殷は夏の礼に因る、損益する所知るべきなり。周は殷の礼に因る、損益する所知るべきなり。其れ或いは周を継ぐ者は、百世と雖も知るべきなり。|「論語」為政第二23
子張問、十世可知也。殷因於夏礼、所損益可知也。周因於殷礼、所損益可知也。其或継周者、雖百世亦可知也。

「十世」は十代先(十代以前)。「可知也」(知るべきや)は「知ることはできますか?」の意。「礼」とは、広く礼節、規範、制度などの社会的な秩序をいう。『礼』とは?|論語、素読会 「損益」とは減らしたり増やしたりすること、増減。「継周者」は周代の次の代、孔子が生きていた時代の人のこと。「雖」(いえども)。「百世」は百代先。

子張が尋ねた。十世代も以前のことを知ることはできますか、と。孔先生がおっしゃった、殷代の規範は夏代の規範を基にしており、若干の変化があるとしてもそれは認識の範囲内である。周代の規範は殷代の規範を基にしており、若干の変化があるとしてもそれは認識の範囲内である。したがって、周代の次の時代を担うものは、百代先の規範、礼節を知ることができる。

【解説】

孔子は制度が整って国が治まっていた「周」の時代を理想としていて、「礼」を受け継ぐことを非常に重要視しています。孔子が60歳代のときの弟子、若い子張が古(いにしえ)の政治、つまりは規範、制度などを知ることができるか?と尋ねています。これに対して「礼」は大きくは変わっていないと応えています。

王が替わり為政者が変わり社会の表層的な変化があるとしても根本は変わらない。だからこそ「礼」を大切にする必要がある、これは孔子の信条なのだと思います。


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【原文・白文】
 子張問、十世可知也。子曰、殷因於夏礼、所損益可知也。周因於殷礼、所損益可知也。其或継周者、雖百世亦可知也。
<子張問、十世可知也。子曰、殷因於夏禮、所損益可知也。周因於殷禮、所損益可知也。其或繼周者、雖百世可知也。>

(子張問う、十世知るべきや。子曰わく、殷は夏の礼に因る、損益する所知るべきなり。周は殷の礼に因る、損益する所知るべきなり。其れ或いは周を継ぐ者は、百世と雖も知るべきなり。)
【読み下し文】
 子張(しちょう)問(と)う、十世(じゅっせい)知(し)るべきや。子(し)曰(のたま)わく、殷(いん)は夏(か)の礼(れい)に因(よ)る、損益(そんえき)する所(ところ)知(し)るべきなり。周(しゅう)は殷(いん)の礼(れい)に因(よ)る、損益(そんえき)する所(ところ)知(し)るべきなり。其(そ)れ或(ある)いは周(しゅう)を継(つ)ぐ者(もの)は、百世(ひゃくせい)と雖(いえど)も知(し)るべきなり。
※其或継周者は、其れ周に継ぐ者或らば、とも、其れ或いは周を継ぐ者は、とも読み下します。


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